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第118話

ケンカの事はよく分からないけど、虎子ちゃんを庇いながらではかなりの苦戦を強いられただろう。 その姿はあまりに痛ましく、今は一刻も早く彼をお医者さまに見せてあげたかった。 なのにボクの目の前に立つ亜也斗は二人のやり取りを見て鼻で笑い、何を思ったのかその場でパチパチと手を叩いて拍手をし出す。 「なるほど面白い余興だね、楽しかったよ。でもそろそろ飽きてきたかな」 「―――なんだとテメェ! ふざけんなよッ!!」 直ぐさま流星くんが憤りも露に声を荒げるが、虎汰を支えている為に前へ出ることは叶わない。悔しそうに歯軋りする音がこちらまで聞こえてきそうだった。 彼の心情を察した和之さんは、けれど流星くんを宥めるように彼の肩に手を置いてポンポンと叩く。 「………流星、気持ちはわかるが今は(こら)えろ」 そう言った彼は流星くんよりも歯痒そうな面持ちをしていた。その様子で自分がこちらにいる限り、彼らは下手に手出しができないのだと悟る。 ボクはどこまで彼らのお荷物になるのだろう……。 悔しさのあまり下唇をぎゅっと噛んでいると、ふと煌騎と目が合った。彼はボクに優しく微笑むと小さく頷く。 なんだかそれが『心配ない、直ぐに助けるから』と言われているような気がした。 「……それで? 今回の目的はなんだ。こんなくだらない事をしてお前は何がしたい」 煌騎がゆっくり亜也斗を見据えて問う。 その様は一見すると冷静に見えたが彼の声音は低く、そして底冷えするほどに冷たかった。 「フンッ、おかしなことを聞くね? 俺の目的は最初からこのおチビちゃんだよ」 亜也斗は先ほどと同様、煌騎の言葉に鼻で笑い床に座り込むボクを捕らえようと手を伸ばす。 恐怖から咄嗟にその手を払い逃げようと暴れるが瞬く間に腕を取られ、とても強い力で引き寄せられて抵抗もできない。 ボクはそのまま強引に腕を引かれると無理やり立ち上がらせられ、まるで幼子のように後ろから羽交い締めにされた。 「やだやだやだあああぁッ! 触らないでええぇッ! 怖いよぉっ、煌騎ぃ……助けてえええぇッ!!」 「―――チィ!………クッ」 あまりの恐ろしさに取り乱したボクは、絶叫してがむしゃらに首を左右へと振る。 呼吸も乱れて昨日のような発作の症状まで出始めたが、意地悪な亜也斗は決してボクを離してはくれない。

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