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第121話
緊張状態が長く続いた為に体力の限界に迎えたボクが、息も絶え絶えに煌騎の腕の中で震えていたからだ。
「チィ、もう大丈夫だ。何も怖い事はない、すべて終わった。大丈夫だから……安心しろ」
そう言って煌騎は頬に手を添えるとボクの顔を上向きにし、彼の優しい唇をそっと重ねた。
それは直ぐに口を割って口内に侵入し、頬の裏側や上顎を擽りボクの強張りを解いていってくれる。
「ンん……はぁはぁ、……んっ……はぁ……」
「……チィ……もう大丈夫だ……大丈夫……」
何度も何度もそう呟きながら彼は奥の方に縮こまっていた舌も吸い寄せ、甘いキャンディーを舐めるように互いの舌を絡み合わせ、ぴちゃぴちゃと水音を響かせた。
煌騎の吐いた息を吸って徐々に呼吸が楽になっていく。先ほどの恐怖も彼の腕の中に包まれていると薄らいでいくようだった。
その間皆は言葉を発さず、周りを取り囲んでボクの呼吸が安定するのを温かく見守ってくれている。
「……チィ、大丈夫か?」
暫くして少し場を離れていた和之さんが落ち着きを取り戻したボクの前に、冷たい紙パックのジュースを差し出してくれた。
見ればパッケージには“チョコ味”と書かれていて、身体はヘトヘトで疲れているのに途端に元気が出る。
この間のホットチョコを飲んだ時の幸福感を思い出したのだ。
「わぁ……“ちょこ味”…だぁ。ありがと…和之さん」
「ん? あ……あぁ、どうぞ♪ 」
お礼の言葉に何故か彼は苦笑を浮かべたが、直ぐに何でもないように振る舞う。どうやらボクの“ちょこ”という発音のニュアンスが微妙に違ったらしい。
それに気付かなかったボクはニコニコと満面の笑みでジュースを受け取った。
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