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第123話
少し離れたところに先ほどの、亜也斗たちから『鷲塚』と呼ばれていた女の子が未だポツリと立っていたからだ。
「漸く私の存在に気付いてくれたようね?」
彼女はニコリと笑って煌騎の前に歩み寄ってくる。
近づくその顔を見た瞬間、ボクは息が止まった。
さっきは亜也斗に絡まれ気が動転していたし、たくさんの男の子たちに周りを取り囲まれていたので気づかなかったけど……たぶんボクは彼女を遠い過去に見た覚えがある。
でもどこで見たのかが思い出せない。
懸命に思い出そうとするのだけれどすぐに頭の中が靄が掛かったようになり、奥の方から鈍い痛みが込上がってきて記憶を遡る事ができなかった。
表情が強張って震え出したのに気付いた煌騎はボクを軽々抱き上げると、彼女を無視する形でその場を立ち去ろうとする。
しかし鷲塚さんは笑顔で彼の前に立ちはだかり、わざとボクたちの行く手を塞いだ。
煌騎は短い溜息を吐き、鋭い目線で彼女を睨む。
「………………ハァッ、フザけるのはよせ愛音」
「アラ、そんなに私を彼に逢わせたくない?でも助けてあげたのにその態度はないんじゃないかしら」
「………なん…だと?」
意外な言葉に彼の眉がピクリと上がる。
煌騎からの反応が返ってきたのがそんなに嬉しかったのか、鷲塚さんはニヤリと含み笑いを浮かべて上機嫌で言葉を続けた。
「私が声を掛けなかったらこの子、そこのドアから飛び出してたでしょうね。そうしたら幾ら貴方たちでもこんなに早くは見つけ出せなかった……違う?」
あくまでも問い掛けるように彼女は言う。
だけどその表情は自信に満ち溢れていて、勝ち誇った顔をしている。
ボクは煌騎の腕の中で愕然とした。確かに鷲塚さんの言う通りだと思ったからだ。あそこから外へ飛び出していたらボクは今も煌騎たちとは会えず、意地悪な亜也斗に追い掛け回されていただろう。
その事実にようやく気が付いた途端、脳裏には先ほどの恐怖が甦り身体がガタガタと震え出した。
「……あ…ぁ……、ボク…ごめ…なさ……、煌騎…ボク、ボク……あ……ぁ……」
あの時は逃げ出したい一心で何も考えていなかった。でも彼女の口から出た“うさぎ狩り”という言葉の意味がようやくわかる。彼らにとってボクは狩られる側、つまり格好の“獲物”だったのだ。
物事をあまり深く考えなかった所為で、危うくみんなに迷惑を掛けてしまうところだった。
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