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第124話

手足が痺れて呼吸の感覚もまた短くなってくるのがわかったけれど、ボクは構わず謝罪の言葉を繰り返し続ける。 だけど優しい煌騎は必死に謝り続けるボクをぎゅっと抱き締めて、少しでも落ち着かせようと背中をポンポンしてくれた。 「もうよせチィ、こうして無事だったんだ。これ以上お前が気に病む必要はない」 「―――でもっ、でも…ボクがっ……」 「大丈夫だ、お前は攫われなかったし今も俺の腕の中にいる。もう大丈夫だから……」 彼は何度も繰り返し繰り返し大丈夫だと言って、辛抱強くボクの背中を摩ってくれる。 そのお陰で少しは落ち着きを取り戻す事ができたが、ふと周りに目を向ければ新たな事態に発展していた。 何故か険しい顔をした和之さんたちが、何の関係もない鷲塚さんを睨みつけていたのだ。 皆に勘違いさせてしまったと慌てたボクは、煌騎に止めさせるよう何とかお願いしたのだけれど、彼も同じ鋭い眼差しを彼女に向けてしまっていた。 「こ……煌騎、違うっ、違うの! ボクが悪いの! この人は悪くないよ!?」 「……チィ、そうじゃない。こいつは今わざとお前を追い詰めるような言い方をした」 鷲塚さんに冷たい眼差しを向けたまま、煌騎は静かに言う。元々彼女はこの学校の生徒ではなく、この場に居合わせたのも、ボクを助けたのも何か裏があってのことだと言って……。 だから彼女に恩を感じる必要は微塵もないと、彼は冷笑を浮かべて断言する。 すると鷲塚さんはクスクス笑い出したかと思うと、先ほどとは打って変わって冷ややかな態度に豹変した。 その姿は清楚な容姿には不釣り合いなほどで驚きが隠せない。 「フフフッ、仮にも婚約者に対して随分な言い方じゃないかしら。ねぇ、茨 チィさん?」 「…………えっ、」 「―――やめろ愛音ッ!!」 驚くボクに煌騎は直ぐさま彼女の言葉を遮った。 初対面の彼女に名を呼ばれた事にも驚いたが、その前に言った言葉に頭が真っ白となる。 しかし鷲塚さんは優雅にニコリと微笑むと、今度はボクに標的を定めたのか此方に視線を向けた。 「ねぇ、煌騎ったら酷いと思わない?人前だと恥ずかしいからって未来の花嫁に冷たくするんだから、クスクス」 「…………愛音ッ、やめろと言っている!」 「やだ、怖~い! 本当のコト言ってるだけなのに、どうしてそんなに怒るのぉ?」 キャッキャと鈴の音のような声音で笑う彼女に、煌騎は眉間の皺を更に濃くした。

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