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第125話

ボクにはあれだけ優しかった煌騎が女の子を相手に、しかも自分の婚約者だという彼女に本気で怒っているように見える。 驚きのあまり呆然としていると、和之さんが険悪な雰囲気が漂う二人の間に躊躇いもなく入ってきた。 「えっと愛音ちゃん…だっけ、悪いんだけど絡むのはまた今度にしてくれる? 見ての通り今はキミの相手をしてる暇はないんだ」 そう声を掛ける彼の表情は一見すると穏やかだけど、その瞳の奥は笑っていない。静かなる怒りを湛えていた。 なのにそんな視線を向けられた鷲塚さんは特に気にした風もなく、肩に掛かった漆黒の髪をサラリと払う。 「あら、チームの“姫”は私のハズよ? その私よりもこの男の子を優先するって言うのかしら」 「まさかっ! でもキミには神崎という心強い本職の方が四六時中護衛として就いているだろう? だったら俺らなんて必要ないと思うけど」 あくまでもお互い笑みを浮かべたまま一歩も退かず、静かに視線だけで牽制し合っている。 けれどもどちらもこの場で争う気はないのか、何処か形だけのようにも見えた。 「もういい和之、それ以上そいつの相手はするな」 煌騎は深い溜息と共にそう言い捨てた。 そして彼らの脇で威嚇するように立っていた流星くんや虎汰にも目を向け、その視線だけで彼らの行動を制する。 当然みんなは渋い顔をしたが、彼は構わずボクを抱いたまま鷲塚さんの前に一歩踏み出た。 「今夜屋敷に行く、それでいいだろ。そこを退け」 「フフ、さすが煌騎ね。私のコトよくわかってるじゃない。それじゃ今夜、待ってるわね?」 苦虫を噛み潰したような顔をする彼に対し、鷲塚さんは至極嬉しそうにはしゃぐ。そしてわざと周りに見せつけるように煌騎の肩に手を置き、粘着質に触れて彼女はニコリと笑った。 勝ち誇ったような眼差しをボクに向け、鷲塚さんは優雅にその場から立ち去っていく。 後に残るのは彼女のキツすぎる香水の残り香と、悔しげに響くみんなの歯軋りの音だけだった。 ボクはこれから何か善くない事が起こるような予感に襲われ、胸が苦しくなってそのまま俯いてしまう。 その様子をじっと煌騎が心配そうに見ていたのだけど、考え込んでしまっていてそれには気づけなかった。

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