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第126話
暫くは誰も口を開かず話そうともしない……。
だけど和之さんだけは何か言いたげな表情で、静かに煌騎を見続けていた。
「よし! とりあえず場所を変えようぜっ」
沈む空気を一変させようと気を利かせたのか、突然明るい声で流星くんがみんなを促す。
すると虎汰がいつものように軽い口調で、『流星のクセに生意気~!』と茶化してその場の空気が少しだけ和らいだ。
彼らの何気ない機転でボクも緊張の糸が解けてホッと息を吐くが、そんな中で一人だけ暗い影を落とす者がいて首を傾げる。
ケタケタと笑う虎汰の身体を献身的に支えている虎子ちゃんだ……。
責任感の強い彼女の事だから、恐らくは今回の件で自責の念に駆られているのだろう。全てはボクの過ちが引き起こした事なのに、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「……あいつなら大丈夫だ。そんなヤワじゃない」
心痛な面持ちで彼女を見ていると、煌騎が優しく声を掛けてくれた。ボクの視線を辿って彼も虎子ちゃんの異変に気づいたようだ。
目が合うと力強く頷いてくれる。
それからボクの不安を取り除こうとするかのように、オデコ同士をコツンとくっつけて『後で俺もフォローしておく』と言ってくれた。
本当は直接彼女には謝りたかったけど、何に置いても不器用なボクに励まされるよりは全然いいのかもしれないと思い直し、素直に頷き返す。
「煌騎、とりあえず健吾さんにはさっき連絡を入れて今日はそっちに行けないと伝えたがどうする?」
皆が移動する中、不意に和之さんが隣に並んでそう尋ねてきた。彼の“どうする?”とはこのまま帰るのかという意味なのだろう。
さすがは根回しの達人である和之さんは、こんな所でも仕事が早かった。いや、こんな時だからこそ迅速に動くのかもしれない。
万が一にも亜也斗たちが報復をしに舞い戻ってくるかもしれないからだ。煌騎は一度和之さんから視線を離すと、考える素振りを見せゆっくりとボクを見下ろした。
「…………なぁチィ、もう少しだけ俺に付き合ってくれないか」
「………う?……」
彼の突然の申し出にボクは戸惑ってしまう。
怖い思いをしたこの学校内にはもうあまり長居はしたくなかった。
出来るならこのまま彼らの溜まり場である倉庫に帰りたい。けれど煌騎は意味ありげにニッと口端を上げる。
「お前に見せたいものがある」
「………見せたい…もの?」
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