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第129話

「コレで機嫌直せ、な?」 俺の秘蔵チョコなんだぞと目の前に突き出されたその"チョコ”を、ボクは顔を突き出してジーッと見つめる。 そのまま彼に手渡されてニギニギしてみるが、感触は想像に反して固かった。ボクの知っているもとのは大きくかけ離れていて戸惑う。 「……どうしたチィ、お前の好きなチョコだぞ?」 反応を返さないボクに疑問を感じた流星くんが顔を覗き込むが、やはり放心状態のボクは手のひらにある"チョコ”を呆然と見ていた。 「……あぁ、チョコレートには色々な種類があるんだよ。飲み物や固形にして食べるものもあるんだ」 「試しに食べてみればいい」 ボクの戸惑いを逸早く悟った和之さんが優しく教えてくれる。それに次いで煌騎が空いている方の手でボクの手のひらから"チョコ”を掬い取ると、きれいな包装紙を手と口を使って器用に開いてくれた。 途端にボクの知ってる"ちょこ”特有の甘い香りが辺り一面に拡がる。 「あっ、この匂い……"ちょこ”だ!」 「……ホラ、口開けろ」 煌騎に薦められるまま、ボクは躊躇いがちに口を大きく開けてみる。すると彼の手にあった"チョコ”はポイッと丸ごと口の中に放り込まれた。 モゴモゴすると甘くて優しい味がボクの口の中いっぱいに拡がる。蕩けそうな味わいに今までの疲労感が一気に吹き飛んで、すっごく幸せな気持ちになれた。 頬っぺたに両手を当ててふにゃあって顔が緩むのを必死に抑えたけどムリ! こんな美味しい食べ物は今までに食べたことない!! ボクは固形の“ちょこ”を心行くまで堪能した。 「……チィ、美味いか?」 暖かく見守るような眼差しで煌騎が尋ねる。 ボクは満面の笑みでコクコク頷いて固形のモノも気に入ったことを伝えた。 すると彼は自分の事のように喜んでくれて頭を撫で撫でしてくれる。それが気持ち良くてトロンと瞳を閉じた。 「フッ、丁度いいからそのまま目を閉じてろ」 「はーい!……ウフフッ♪ 」 最後にポンポンと軽く叩いて大好きな煌騎の手は去ってしまったけど、口の中にはまだ幸せな味が残っているから大丈夫だ。 それに今から何が起こるのか楽しみで仕方がない。 自然と笑みが零れ、煌騎はボクが固く目を瞑っているのを確認するとゆっくり歩き出す。 「………ぁ……」 ギイィッという音の後に扉らしき境界線をくぐった瞬間、ボクの頬をふわりと優しい風がくすぐった。 どうやら外へと出たらしい……。

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