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第130話

目を開けるのが待ち遠しくて瞑ったまま辺りをキョロキョロと窺っていると、煌騎に"もう少しだから待て”と笑われてしまった。 我慢できずに思わず目が開いてしまいそうだったので、ボクは彼の胸元にぎゅっとしがみついてそこに顔を埋める。 それからそわそわしながら待っていると暫くはそのまま地面を歩いていたのに、何やら鉄の匂いがする階段か何かを空いている方の腕を使ってよじ登っている感覚がした。 煌騎はその何かを登りきると一息吐き、辺りを見渡しながらまた平たいところを歩いて立ち止まった。 「チィ、もう目を開けていいぞ」 「………う?……も、いいの?」 「あぁ、でも目がまだ外に慣れてないだろうからゆっくりと開けろよ」 やっとお許しが出てボクはドキドキしながらそーっと瞼を開ける。しがみついていた体勢で先ず瞳に飛び込んできたのは、 驚くほど澄み渡った青い空だった―――…。 「…………ぁ………」 何の障害物もない其処はすべての景色が見渡せ、まるで自分の身体が(そら)に浮いているようだった。 幼い頃に見て以来、もう見ることも叶わなかった空が今ここにある。――屋敷を抜け出したあとも"(それ)”は変わらずそこにあったのだろうが、目まぐるしく過ぎていく日々の中で見るのも忘れていた……。 手を上に差し伸べてみても、当然のことながら空には手が届かない。代わりに大気の流れを肌で感じて、瞳からは自然と大粒の涙がポロポロ溢れ出した。 窓からチラリと眺めた"(それ)”とは比べ物にならないくらいに美しい。それに……、 「………お空って…こんなに、広かったんだね……」 「あぁ、俺はこの景色を早くお前に見せたかった。だから事を急いて……チィに怖い思いをさせてしまった。本当にすまない」 「…………ぇ………」 彼の突然の告白にボクは驚く。そのあまりの驚きに涙が思わず引っ込んでしまった。 窺うように煌騎の顔を見れば、彼は揺るぎない眼差しで前を真っ直ぐに見つめたまま言葉を続ける。 「俺はチィに早くこの学校に溶け込んで貰いたかった。きっと此処でお前は多くの事を学ぶだろう、それはいずれ生きていく力となる」 だから和之さんたちが止めるのも聞かず、ボクの編入を急がせたのだと彼は言う。最後にぎゅっとボクを抱く腕に力を込めた。 その瞳は変わらず前を向いていたけれど、彼の優しい心遣いが痛いほどに伝わってくる。

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