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第133話〜忌々しい存在〜(愛音side)

「………気は済んだか、お嬢」 昇降口の角から突如姿を現した男、私のボディーガードの神埼が口端を上げながら尋ねてくる。たかが世話役兼護衛の分際で本当に嫌味な男……。 あの不破という男が言った通りこの神埼は四六時中私にべったりとくっついていて、先ほどの事もしっかりと陰で見ていたクセにわざと神経を逆撫でする言い方をする。 どうせ護衛を撒いて勝手に許嫁の通う学園まで単独で訪れた事への腹いせなのだろうが、その煌騎に袖にされて気が立ってるというのに腹が立つったらない。 イライラを隠しもせず感情のままにキッと睨むも、この男にはまったく効果がなかった。 まぁそれもそうか……。 幾らこの男の見てくれが繁華街を彷徨くホスト風の優男でも、お祖父様の組に所属するれっきとした極道者なのだ。 甘いマスクの下には底知れぬ野心があり、隙を見せれば容赦なく弱者を喰らい尽くす恐ろしい一面を隠し持っていた。 世襲制の鷲塚組唯一の後継者である私といえど、この男にとっては所詮まだ利用価値のある操り可能な16才の小娘なのだろう。 「フンッ、言葉に気をつけなさい。職務怠慢も度が過ぎるとお祖父様に報告するわよ、神埼」 此方も嫌味の1つや2つくらいは言い返してやりたくて、自分の行動は棚に上げてそう怒り巻いてみる。 けれど彼はいつも通り涼しい顔をしたまま私のところまで来ると、背後の定位置へ回り込んでフッと鼻を鳴らした。 「己の首を絞めたいならどうぞお好きに? その代償として今以上にお嬢の自由がなくなるけどな」 「―――ッ!?」 そう言われれば私は黙るより他ない。本当に忌々しい男だと思った。だけど言い返しても口で彼に勝てる気がしないのもまた事実……。 なのでこれ以上は不快な気分になりたくなくて、敢えてここは何も言わずに顔を窓の方へ向けた。――と、その窓の外に見たくないものを見つけてしまって途端に眉間にシワが寄る。 先ほどいた棟の屋上に煌騎と"あの子”の姿があった。あそこは白鷲幹部のたまり場として外部でも有名な上に、同じ学園の一般生徒はおろか教諭たちすらも立ち入る事を憚る場所だったハズ。 勿論この学園の生徒でもない私は完全に部外者扱いを受け、その領域へ脚を踏み入れる事すらできないというのに……。 たった数日前、煌騎が拾ったとかいうあの“ゴミ”はいとも簡単に入る事が許されている。それは許し難い屈辱だった。

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