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第134話
あまりの腹立たしさに親指の爪を強く噛んでその光景を睨んでいると、神埼が私の視線の先に気づき感心したように息を吐く。
「ホゥ……あのちびっこ、白銀を上手く手懐けて奴のテリトリーにすんなり入り込むとは、見かけによらずなかなかやるじゃねーか。やっぱり血は争えねーな、流石あの人の―――…」
「―――神埼ッ、それ以上あの子のことを口にしたら許さないわよっ!!」
軽はずみに私たちにとっては最大級の禁忌を口にしそうになった彼を、私は慌てて止める。運命共同体の私たちはそれが世間に露呈すれば、文字通り身の破滅だ。
周りを確かめながら強めに睨むと今度は効き目があったのか、珍しく彼は肩を落として申し訳ないという顔をする。
「あ……あぁ、悪いっ、ついうっかり口がスベった」
「ホント気をつけてよねっ、私はあなたと心中する気なんて更々ないんだからッ!!」
深い溜息を吐きながらも私はもう一度屋上にいる二人の姿を見る。あの子が憎い。生きたまま焼き裂きにして、じわじわと死に追いやってもまだ足りない。それほど私はあの子が憎かった。
すべてを持って生まれたクセにあの子は多くを望み、私から煌騎をも奪っていった。だから10年前、"あの方”の力を借りてすべてを奪い取ってやったというのに……性懲りもなくあの子はまた私の前に現れたのだ。
「"あの方”はどうしてあの子の命を奪っては下さらなかったのかしらっ、そうすれば私の心はこんなにも乱れはしなかったのに……」
長年抱き続けてきた不満がつい口をついて出る。私の為なら何をしても厭わないと言っていたのに、あの時はどんなに望んでもあの子を始末してはくれなかった。
"いずれは殺す事になるだろうが今はその時ではない、時期が来るまで待ちなさい”と言って……。
あまり"あの方”に我儘も言えずその意向を汲んで大人しく引き下がったが、約束は未だ果たされぬままだ。
そして時が経ち今回、こともあろうに誰かの不手際であの子は地下室から逃げ出してしまった。
ますますイライラが募ってまた爪を強く噛み締めると、後ろに控えていた神埼がクスリと笑う。それに反応し私はゆっくりと振り返った。
「…………何よ、」
「いや、やっぱりお嬢はとことん世間知らずなんだなと思ってね」
「―――なッ、なんですって!?」
その小馬鹿にした言い方が癪に触り、私は咄嗟に手を挙げる。
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