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第135話
けれどもその手は神埼の頬に当たる寸でのところで、彼の男らしい大きな掌でアッサリと止められた。
「女で俺の顔を殴っていいのは、俺の女になった奴だけだと何度も言ってるだろう……。それとも何か、お嬢は俺の女になりたいのか?」
「―――フザけないでっ、誰がアンタみたいな頼りない男のオンナになんかなるもんですかッ!!」
そう息巻けば神埼は"酷い言われようだな”と肩を揺らして笑う。だけど私は彼から腕を奪い返すと、いつの間にか話を逸らされたのにも気づかずまた睨み付けた。
「馬鹿にするのもいい加減にしてっ、私はいずれ鷲塚組のトップに立つのよ! 少しは敬いなさいよッ!!」
「フンッ、こんな事で直ぐ頭に血が昇るんじゃまだまだガキの証拠。まったく、先が思いやられるぜ……」
上に立つ器ではないと言い捨てられたようで私は余計に腹が立った。神埼だけじゃない、煌騎や白鷲の幹部たちもそうだ。
皆が私を無視し、蔑ろにする。私はぞんざいに扱っていい人間ではないというのに……。
これもあの子が生きている所為だと思うと、どうにも収まりがつかなくなってくる。
怒りに震える己の身体を強く抱き締めながら、でも落ち着いた様子を装って静かに神埼を見返した。
「そうやってみんな私を軽んじていればいいわ。どうせ来年の6月には正式に跡目を襲名する事が決まっているもの。それまでに私は自分の手であの子を始末する!」
「ほぉ、"あの方”のご意向を無視するか……。いいだろう、俺も力を貸してやるよ」
「え……アナタ私のお目付役でしょ、止めないの?」
意外な言葉が返ってきて私は驚く……。
"あの方”の忠実な犬と化している神埼なら、絶対に止められると思っていた。
なのに彼は主に刃向かうというのにまったく動じていない。寧ろ本望だと言わんばかりの強い眼差しをこちらに向けた。
「命令を聞くばっかりじゃ上へはいけないからな、たまには自分で考えて行動しないと……。で、勝算はあるのか?」
冷静な神埼はあくまで私が首謀者となって動く事を前提に話を進める。どこまでもずる賢い男だ。
だけど今の私はまだ何の力もない非力な存在なのも事実で、彼は唯一動かせる貴重な駒なのだと自分に言い聞かせそれを容認した。
「蛇黒を使うわ、どうやら亜也斗があの子を気に入ったらしいの。上手く利用すれば罪は彼らがぜーんぶ被ってくれる」
「………なるほど、蛇黒……か………」
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