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第137話

優等生の彼は遠回しに私が学校をサボり、他校の校舎に不法侵入している事を咎めているのだろうか? けれど私が煌騎の許嫁だと知っているからか、好意的に努めてくれているのが見てとれた。それは公にはまだ公表していない事から、彼が熱狂的な煌騎のファンなのだというのが分かる。 それなら利用する手はない。 「あら、神埼と今夜のスケジュールを確認していたら時間を忘れていたわ。この学園の理事長に用があったのだけれど、今日お会いするのはもう無理ね」 私はさも今気づいたというように見せかけ、大袈裟に驚いて見せる。長年に渡り鷲塚家の孫娘として裏と表を使い分けてきた私にとって、これくらいの演技は造作もないこと……。 最上級の微笑みを彼に向け、故意ではない事を最大限にアピールする。 「鮎川さん……でしたかしら? ありがとう、あなたが通らなかったら私たち授業に間に合わなくなっていたわ」 「あぁそうでしたか、ならお役に立てて良かった」 最後にニッコリとお礼を言うと、彼は何故か少し頬を赤らめて俯いた。私の笑みは男女問わず惑わす威力があると自負しているが、こうも覿面(てきめん)に効果が表れると失笑してしまいそうになる。 しかもネクタイを見れば学年は彼の方が2つも上なのに、上からものを言っても気にした風もない。 一見すると生徒会長に選ばれただけあって面倒見も良く、先輩後輩関係なしに接してくれる温和な性格なのだと思わせた。 でも私はここへ来て直ぐ、他の者に対して横柄な態度をとっている場面を目撃している。彼は強い者に巻かれるタイプだ。そういう人間はキライじゃない。 ふとある事を思い付いて確認の為に口を開いた。 「先ほどコチラの職員室で先生方からお聞きしたのだけど、鮎川さんって吉良 悠真と同じクラスなのよね?」 「え? えぇ、吉良くんは素行こそアレですが成績は優秀だから三年間ずっと同じクラスです」 鮎川さんは誇らしげにそう答える。この学園は成績順にクラス分けをするので、暗に自分も成績優秀者だと誇示したいのだろう。 だけれど私が聞き出したいのはその事ではないので、敢えてそれは軽くスルーする。

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