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第138話

「彼ってどんな人? 二年の常磐くんのお宅に居候していると聞いたのだけれど本当かしら」 「えぇ、本当ですよ。何でも彼のご両親は共に住み込みで常磐家に仕えている使用人だそうで、あの二人は幼い頃からずっと一緒にいる…らしいです……」 不躾に吉良の個人情報を尋ねる私に訝しんだ鮎川さんは、途中から尻窄みに声が段々と小さくなっていく。 彼に警戒心を持たれては元も子もないと、私は直ぐさま完璧な笑顔を作り直し顔に貼り付けた。 「あぁ、誤解しないで? 私から彼らに何か仕掛けるとかじゃないの。実は向こうから接触があって……」 「―――えっ、接触って……もしかして今日、転校してきた茨さんと何か関係がありますか?」 「えぇ、そうなの。それで困っていて……」 獲物が罠に掛かった事を私は心の中で密かにほくそ笑む。今朝の行動から煌騎に心酔している彼なら、既にあいつらが動いて何かを吹き込まれていると踏んだが思った通りだ。 後は造作もない。彼をこのまま上手くマインドコントロールして私の従順な手駒として飼い慣らし、必要な時に必要な分だけ動いて貰えばいい……。 本人が利用されている事に気づいた頃にはもう手遅れ、彼は抜け出せないところまで落ちている。 それからも色々と情報を仕入れる為に言葉を交わし、授業の時間が迫っているからと私は自分の学校へ戻る事になった。 踵を返し鮎川さんに背を向けた際チラリと背後の男を見遣れば、彼は口元に手のひらを当ててこっそりと笑いを噛み殺している。 完全に面白がっている様子の神埼にイラつきを覚えるが、まだ後ろには私たちを見送る鮎川さんの姿があるので噛みつけない。 腹立たしい部下にイライラをぶつけるのは後にして、私はこれからしなければならない事に考えを巡らせた。 今度こそ私自らの手ですべてを奪い、永遠にあの子を闇へ葬り去ってやる。それだけの経験と知恵を身に付けてきた。 私はもうあの時の憐れな子どもじゃない。 見てなさい『茨 チィ』、その名もまた直ぐに奪ってあげるわ―――…。

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