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第140話

「チィ、お腹空いてない? 夕食までまだ時間があるから何かおやつでも作ろうか」 「……う?……おやつ?」 鉄晒しの階段を昇りながら、和之さんがそう尋ねてくれる。でも今まではそんな習慣がなかったので、何の事を言っているのか最初は分からず、小首を傾げてしまった。 頭を捻ってようやく壁に掛けてある時計を見て"あ、3時のおやつの事か!”と思い出す。でもかなり過ぎてる。 「パンケーキでも作ろうか、アレなら簡単だし夕食までは腹も保つよ」 「―――パンケーキ!?」 和之さんの提案にボクの耳はピクリと反応する。直ぐさま煌騎の首元にしがみつくと、後ろにいる彼に期待の眼差しを向けた。 「んと、んと……和之さん、パンケーキって白くてふわっふわしたのと、小っちゃくって丸くて赤いの、ついてる?」 「ん?……あぁ、もしかしてホイップクリームとさくらんぼの事かな? それなら丁度チィのおやつ用に昨日買い足したところだから、ご要望に応えられると思うよ」 興奮気味に尋ねると和之さんはニコニコと頷く。途端に嬉しくなったボクは、更に煌騎の首元へしがみ付いて顔を埋めた。もう嬉しくて仕方がない。 「ボク…ボク、パンケーキ食べるの、初めてなの 」 昔一度だけヨレヨレの雑誌に載ってたのを見たことがあるのだけど、それがスッゴく美味しそうだったのだ。 興奮のあまりキャッキャと騒いでいたら真横から苦笑が漏れ聞こえ、キツく締め過ぎていたボクの腕を軽く叩いて少し緩めるよう言われた。 「分かったからチィ、とりあえず落ち着け。暴れたら落っこちるぞ?」 そう言うと彼は軽々とボクを抱き直す。 後ろに続く和之さんや朔夜さん、流星くんもクスクス笑って『パンケーキは逃げたりしないよ~♪』と揶揄された。けれどその瞳は皆、穏やかなまま優しく見つめてくれている。 「はぅ、ごめん…なさい、煌騎……」 「別に怒ってるワケじゃない、いちいち謝るな。喰うのが楽しみなんだろ? だったらそのまま喜んでろ。その方が作る和之も喜ぶ」 さすがに子供のようにはしゃぎ過ぎたと気づき、顔を赤らめて俯き加減に反省の言葉を口にした。 煌騎は困ったように軽く息を吐くと、ボクの顎を指で掬って直ぐに顔を上げさせる。 ぶっきら棒だけど優しい言葉に宥められ、シュンとしていた気持ちが一気に再浮上した。

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