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第142話

「あれ? 健吾さんの匂いがする……」 皆が集まる部屋の前までやってくると、何処からか消毒液のような匂いが漂ってきた。 その匂いイコール健吾さんという認識が既に頭の中にあったボクは、迷わず彼の名前を口にする。 「ん、そうか?俺はなんも匂わねーけど……」 後ろに立つ流星くんは鼻をくんくんさせながら首を傾げたけど、彼以外は匂いを敏感に感じたようで訝しげにお互い顔を見合わせて確認し合う。 でも誰も事前に聞いていなかったのか、無言のまま首を横へ振った。 「でもおかしいな、彼なら此処へ来る際は必ず連絡を寄越してくれるハズなんだけど……」 「虎汰が治療を終えて戻ってきてるんじゃないのか? それかあいつの事だからまた無理言って健吾さんを連れて帰って来たか」 頭を捻る和之さんに朔夜さんが呆れ口調で言う。だけど臆測で考えていても仕方がないので、煌騎がドアノブに手を掛けてゆっくりそれを回し中へ入っていった。すると―――… 「「「あ! チィ、お帰り~♪ 」」」 ―――パンッ、パンッ、パーンッ!! 「―――ひゃうっ!?」 中からクラッカーの音が一斉に鳴り響き、三人掛け用のソファに座る虎汰と虎子ちゃん、その向かいに健吾さんがいて満面の笑みで出迎えてくれる。 しかし一瞬にしてカラフルな紙屑に塗れたボクは、訳も分からず呆然としてしまった。でも一緒に被害を被ったハズの煌騎も、その後ろにいる三人も黙ったまま呆れたような眼差しを彼らに向けている。 「何だ、驚いたのはやっぱチィだけかよ~。ちぇっ、どうせならもっと派手なやつにすりゃ良かったかなぁ?」 そう虎汰は口を尖らせながら不満を漏らしたが、表情はとても嬉しそうで満足げだ。 一緒にいる虎子ちゃんも健吾さんも苦笑いを浮かべている所を見ると、発案者は彼なんだろうなという事は容易に推察できた。 「ね、ねぇ虎汰……これ……なぁに?」 とにかく意味がわからなかったボクは、戸惑いながらも彼にそう尋ねる。 すると虎汰はもの凄く嬉しそうに答えた。 「いや~、チィの初登校記念をみんなで盛大に祝っちゃおうぜぇっ……みたいな?」 「いや、ソコなんで疑問系なんだよっ」 透かさず流星くんが反論する。けれど虎汰はそんなツッコミには気にした風もなく、横にあった紙袋の中身を机の上にぶち撒けた。中からは大量のお菓子が山のように出てくる……。

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