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第143話
「……おい、ちょっと待て虎汰、それはなんだっ」
「ん? お祝いと言えば美味しいお菓子だろ、チィと食べようと思って買い込んできた! ほらチィ、こっちおいで~♪ 」
和之さんがこめかみを指先で押さえながら尋ねるが、やっぱり彼は悪びれた感じもなく平然と返す。
そしてお菓子の袋を2つ3つ持つと、ボクに見えるように手元で振った。
「……………ガキ……」
朔夜さんの怒りの篭った重低音の声が室内に響く。周りの様子を伺いながら煌騎についたカラフルな紙屑をひとつひとつ摘んで取り除いていたボクは、その声に思わずビクンと身体を跳ねらせてしまった。
けど直ぐに背中をポンポンされて落ち着きを取り戻す。
「え~、なんで~ッ!? ぜーんぶ新作のお菓子なんだぞ、せっかくチィの為に一生懸命探したのに~ッ」
「ハァ…………健吾、とりあえずこいつは大丈夫なんだな?」
あくまでフザケ続ける虎汰に煌騎は深い溜息を吐き、やや時間を置いてから向かいに座る健吾さんに目線を向ける。
彼の視線に気づいた健吾さんは苦笑しながらも、しっかりと力強くボクたちに頷いてくれた。それを見てみんなもホッと息を吐く。
今は元気そうに見えるけど、彼は一応肋骨を骨折中なのだ。至るところに包帯がグルグルと巻かれていてとても痛々しいけど、本人はすべて掠り傷だと言って譲らない。
「……和之、チィを連れて向こうへ行ってろ」
「―――やっ!?……やぁっ………」
煌騎は静かにそう言うと、ボクを隣に立つ和之さんに預けようとした。でも何か嫌な予感がして懸命に彼にしがみついくと、首をぷるぷると横に振る。
それなのに煌騎は嫌がるボクの身体を和之さんの方へ差し出し、有無を言わせない感じにボクは恐怖すら感じた。
「大丈夫だよチィ……ほら、おいで?」
「―――あぁ、いいよ。彼は俺が預かろう」
手を差し出す和之さんにも首を振って微かに抵抗を示すが、健吾さんが後ろから近付いてきてボクの身体をヒョイといとも簡単に浚う。
不意を突かれた為にろくな抵抗もできず、気がつけばボクは上機嫌な健吾さんの腕の中にいた。
「やぁっ、やだぁ……ボク、煌騎の傍に…いるのぉ」
煌騎から引き離されてパニックに陥ったボクは、涙目になりながら懸命に彼に助けを求めるよう腕を伸ばす。
だけど彼はその手を取り握り返してくれるだけで、健吾さんからボクを取り返してはくれない。
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