144 / 405
第144話
その絶望感に涙が零れ落ちそうになる。
無表情を貫いていた煌騎はそれを見て一瞬辛そうな顔をしたけど、それでも何も言わず静かにもう片方の手を頬に当てて優しく撫でてくれた。
「……チィ、彼らは今からチームの大事な話をしなきゃならないんだ。だから俺と向こうに行ってよう、な?」
口下手な彼の代わりに健吾さんが代弁するように言う。でも不安に駆られたボクは頑なに首を振り続け、尚も煌騎の手に縋った。彼ならこの手は振り払わないと信じて……。
「虎汰も虎子ちゃんも……ちっとも悪くないっ、叱るなら…ボクを叱ってよ。だってボクが悪いのっ……全部……全部ボクがッ……ハァハァ」
「チィ……それは違うよ、今朝の事を言ってるならあれは巧妙に仕組まれた罠だったんだ。だから今回のことは誰も悪くない、仕方のない事だったんだよ」
段々と呼吸が荒くなるボクに、健吾さんは諭すように優しく言う。けどボクは聞き分けのない子供のように首をブンブン振って、叱るならボクをと懇願した。
誰の所為でもないのなら、ボクを除け者にしなくてもいいハズだ。なのに別室に連れていこうとするのは、ボクのいないところで二人を叱る為だと思った。
「ハァ………………そんなに言うなら、わかった。お前にも罰を与えよう」
「―――え、ちょっ、待てよ煌騎、本気かっ!?」
彼の言葉にその場は一時騒然となる。
珍しく動揺した和之さんは咄嗟に彼の肩に手を置いて止めに入り、流星くんも朔夜さんも守るようにボクの前にスッと立ちはだかった。
ソファに座る虎汰も立ち上がろうとして肋骨に響いたのか、蹲るように床へ崩れ落ちて虎子ちゃんに慌てて支えられている。
「ったく、お前らチィの事になると途端にダメ人間になるんだな。こいつが友だち思いのこんないい子に手を挙げると思うか?」
その光景が余程おかしかったのか健吾さんはククッと喉の奥を鳴らし、まるで堪えるかのように肩を揺らしながら笑う。
すると本気でボクが殴られると心配していた和之さんたちは、ようやく我に返り安堵の息を吐いた。
「そ……そうだよな、いくらなんでもチィを殴ったりしないよな! そんな事したらチィ壊れちまうかもしんねーし!!」
心底ホッとしたように言い流星くんは胸を撫で下ろす。でも煌騎は何も言わず、ボクの頭にそっと拳を伸ばした。――と次の瞬間、パチンッ!という音と共に信じられないくらいの衝撃がおでこに走る。
ボクは思わず両手で自分のおでこを押さえた。
「―――あうっ、痛ッ……く、ない?……あれ?」
受けた衝撃は派手な音に反して、意外なほど痛みは少ない。寧ろその音に驚いただけだった。
周りにいたみんなも信じられないものでも見たように驚いて目を点にする。そんな中、健吾さんだけは豪快に笑っていた。
「バッカだなお前ら~、言いつけを守らなかった子はどんな事情があろうとデコピンの刑が処せられるのは定番中の定番だろ? まんまと俺に騙されやがって、まだまだ脇が甘いな♪ 」
「いや、それはそう……んー、なんかちょっと違うような気もするけど……でも………」
飄々と言う健吾さんにみんなは戸惑いを隠せないのか、オロオロして心配そうにこちらを見ている。
だけどボクはちゃんと煌騎に叱って貰えた事が嬉しくて仕方がなかった。
ともだちにシェアしよう!