145 / 405

第145話

自分の過ちに気づき、悔いているのに誰も叱ってくれなかったのが腑に落ちなくて、ひとりモヤモヤしていたからだ。 確かに今までは理不尽な暴力を受け、痛みや謂れのない暴言を吐かれて恐怖に震えていた。けれど今回はちゃんと正当な理由がある。 ボクを本気で叱ってくれたのは煌騎だけだった。だからほんのちょっと痛かったけど、甘んじてそれを受け入れる事ができる。 「煌騎ごめんなさい、これからは気を付けますっ」 赤くなったおでこを擦りながらペコリと頭を下げ、ボクは満足気に謝罪の言葉を口にした。それを見て煌騎も静かに頷くと口端を緩やかに上げる。 「人は誰でも過ちを犯す、問題はそこから如何に学ぶかだ。だがここにいるみんなはお前なら同じ失敗は繰り返さないと信じているからこそ、敢えて叱らなかった。それは……わかるな?」 「うん、我が儘言ってごめんなさい。……健吾さん、和之さん、朔夜さん、流星くん、虎汰に虎子ちゃん、それから煌騎も! いつもボクを見守ってくれてありがと!!」 改めてボクはみんなに感謝の気持ちを述べた。 誰かに心配して貰ったり、悪い事をした時は怒って貰えたりするのってとても幸せなことだ。 だってそれはボクに関心を持って貰えているって事だから……。 ニコニコと周りを見渡すと皆は少し驚いたような顔をしていたけど、次第に穏やかな笑顔へと変わっていく。いつもの暖かく見守ってくれてる時の表情だ。 「ふふっ、もう気は済んだかチィ? さっ、美味しいケーキ買ってあるから一緒に食べようなぁ♪ 」 ご満悦の健吾さんは一度ボクを抱え直すと愉しそうにそう言った。そういえば彼が先ほど、煌騎たちはこれからチームの大事な話し合いがあると言っていたのを思い出す。 ボクは短く『あっ』と声を漏らすと大慌てでコクコク頷き、彼に早く退室するよう催促した。 「健吾さんっ、あんまりチィに食べさせ過ぎないようにして下さいよ? 夕飯が食べられなくなっちゃいますからっ」 隣のキッチンに向かう途中、和之さんが心配そうに健吾さんに忠告する。けれど彼はその声には反応せず、片手を挙げただけで返事も返さなかった。 なのでボクが代わりに後ろを振り返り、彼に『大丈夫だよ』と言って手を振ってあげる。 それを見て皆はクスクスと笑い出してしまったが、何故か和之さんだけはまだ心配そうな顔でこちらを見ていた。 大丈夫って言ってあげたのになんでだろ……? 内心は不思議に思いつつ、でも彼に安心して貰おうとボクは部屋を出るまで笑顔で手を振り続けたのだった。

ともだちにシェアしよう!