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第147話
「厄介なのが動き出したな……」
「あぁ、しかも今朝の様子から今後は鷲塚家のご令嬢もこの件に関わってくるかもしれないしな」
流星が辟易したように言葉を漏らし、和之も渋い顔をしてこちらをチラリと見ながら言う。それは俺も危惧していただけに、思わず眉間に皺を寄せた。
蛇黒の常磐もそうだがあの女は俺に異常なまでの執着をみせ、少しでも俺に近づく者は誰であろうと排除してしまう。
利害が一致しているなら今頃は奴と手を組んでいてもおかしくはなかった。問題は蛇黒No.2の吉良がどう動くかだ。
奴とは和之が密かに協定を結び学園内では常磐の暴走を抑制する代わりに、チーム同士互いに干渉し合わないという取り決めを交わしていた。
だがその約束がどこまで果たされるかはわからない。俺は虎汰と流星の間で事の成り行きを静かに見守る虎子に目を向けた。
「今後チィの護衛は虎子、お前に任せる。俺が傍にいてやれない時は決してチィから目を離さないでやってくれ。サポートは引き続き流星と虎汰だ」
「―――え……ちょっ、待ってよ! 今回は私、最大のミスを犯したのよっ!? それに忘れてるかもしれないけど私はチームの部外者だってばッ!!」
突然の任命に虎子は戸惑いを見せる。
まぁ驚く気持ちはわからないでもないが、いまさら撤回する気もないので弁明の余地は与えない。冷酷なまでに俺は言い放つ。
「その件なら白夜の総長とはもう話がついている。今日付けでお前を白鷲幹部に引き抜いた」
「うそっ………そん…な……っ」
「今回の処置はお前にもう一度チャンスを与える意味合いもある。向こうもそれで了承した」
まるで脅し文句だな、と心の中で密かに思う。
全面的に白夜 の不手際だと詫びる向こうのトップに、なら今回の件を水に流す代わりに虎子を差し出せと俺は交渉した。
本来なら当事者を無視した取引など持ち掛けたりはしない。しかし俺以外でチィが気を許せているのは今のところ、こいつしかいないのも事実だった。
チィは同じ男から性的虐待を受けていたからか、極力優しく接している和之や朔夜ですら急に触れると怯える時がある。本人はそれをひた隠しにしているが、小刻みに震える小さな身体は雄弁に語っていた。
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