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第150話
奨の口からそんなことを言われるとは思わなかっただけに、俺は激しく動揺する。あの伝令は信念を持って奴が発令したハズだったからだ……。
『構わんさ、アレがお前らの足枷になるくらいならまだ撤回してくれた方がマシ。つか遅すぎだっ、このバーカ。こういう事態はお前なら予測できたハズだぞ』
「―――ッ、確かに予測はしていたが……っ」
まだ当時こいつが総長を務めていた頃、チームは女絡みのトラブルが絶えなかった。といっても昔からその問題は絶えずあったのだが奨の代は特に酷く、当の本人を無視して勝手に"総長の女”の座を巡り女同士の間で争っていたのだ。
その所為で巻き込まれ利用された男どもは完全な腑抜けとなり、チーム内の規律は大いに乱れた。それに手を焼いた奨は先代たちとも話し合い、"チームにとって女は排除すべき存在”との結論に至ったのだった。
『虎子がゲスト扱いだと、お前が使い難いだろ? 傘下にも入っていないチームとの連携は難しいからな』
俺が訝しむように黙していると、奨は何でもないようにサラリと言う。現役を引退したといってもやはりトップを張っていただけはあると思った。
まるでそれを目にしていたかのように奴は、今日一日俺が痛感したその障害を言い当ててくる。
「………どうして……何故あんたは俺の“拾い物”をそこまで気に掛ける。理由はなんだっ」
『理由…か……、ひとつ挙げるならつい先日、ある人物の目撃情報を入手したからかな』
「………ある…人物……?」
俺の問いに奨は勿体つけようとしているのか、電話口でクスクスと笑うだけでなかなか答えようとはしない。
痺れを切らしあからさまに苛立ちを滲ませて短く舌打ちをすれば、奴は呆れたように息を吐いてようやく話し出す。
『10年前……あの惨劇の後、誰にも何も言わず忽然と姿を消した男だよ。お前もよく知ってるだろ?』
「―――ッ!?……まさか…それって………」
『あぁ、目撃情報は多数あるからほぼ間違いないだろう。"あの人”はこの街に戻ってきている』
とても信じられない情報に俺は息を呑む。
奨の言う『あの人』とは、あの日から姿を晦まし行方不明となった俺の父親のことだった。
こいつのところに集まる情報ならまず間違いはないだろう。だがどう考えても眉唾物の情報に、俺は少なからず動揺が隠せなかった。
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