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第153話
「あんたの元に俺の父親の目撃情報が入り出したのはいつ頃からだ」
『ん? あぁ、ふた月ほど前からだがあの人だと断定できたのはお前らが"拾い物”をした日の夜だ。淀宮地区の森林から出てくるのを大勢の人間が目撃している』
「フン、やはりそうか……」
それを聞いてある読みが確信に変わる。
あの日監禁されていたチィを屋敷から逃がしたのは、他の誰でもない俺の父親だ。それはほぼ間違いないだろう。
何かがおかしいと薄々は感じていた。鎖は切れていたが足枷はそのままだったチィ……。
10年もの間、命を奪われもせず地下の一室で獣のように飼い慣らされていたハズなのに、華奢なあいつがどうやって単独で厳重な体制を掻い潜りあの屋敷から抜け出せたのか、どうしても謎が解けなかった。
だが尋ねてみても、当の本人は覚えていないという。
眠りから目覚めた時には既に鎖が切れていて、地下室の扉も何故か開放されていたと……。
それを奨にも伝えると俺と同じ見解を導き出す。
『だったらあの人はお前に託したんじゃないのか? 今お前の手元にいる子が跡目の“娘”かどうかはこの際置いといてさ……』
「そうだな、俺もそう思う。父さんは今じゃ汚名を着せられていて、この街では完全に身動きが取れなかっただろうし……」
そう返しながら俺は擽ったい気持ちに駆られる。久しぶりに『父さん』と口にした……。
父親が知らぬ間にこの街へ戻っていたと知った時は頭に血が登り、なぜ息子である自分に連絡を寄越さなかったのかと憤りを感じたが、事情を呑み込めば納得もできる。
それにもしかしたら大切なものを父親から預かったのかと思うと、なんとも言い表せない不思議な感情が沸き立ったのだった―――…。
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