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第154話〜そしてボクらはいま戦ってます!〜
「えと……健吾さん…ホントにいいの? 勝手にキッチン使っちゃっても……」
「ん? 大丈夫だよ、要は汚さなきゃいいんだから♪」
ボクの心配を他所に健吾さんは平然と笑顔で答える。隣の部屋に移動したボクたちは紅茶を淹れようという彼の提案で、和之さんの大事にしているキッチンへ無断でお邪魔していた。
それでふとさっき彼とパンケーキを作る約束をしていた事を思い出し、健吾さんに何気なくその話をしてあげたら"じゃあ今から二人で作ろう!”という展開になったのだ。
でも和之さんは普段から他の人がキッチンに入る事をあまり快くは思っていないようなので、なんだか申し訳ない気がしてボクの胸は先程からドキドキが止まらない。
なのに健吾さんは気にした風もなくキッチンに入っていって、いろいろ中を引っ掻き回し始める。
「あいつは男の癖に細か過ぎんだよ、少々汚れても死にはしないっつーの! さっ、チィ始めよっか♪ 」
「……う?…うん、だけど……」
ボウルや赤い線が引かれた透明のカップ、それに何に使われるのか用途のわからない道具を引っ張り出しながら言う健吾さんに、ボクは頷きながら尚も尻込みしてしまう。
どうしても罪悪感が消えないのだ。
この何日かでいかに和之さんがキッチンを大切に扱っていたかを見ていただけに、彼の神聖な場所を汚しているような気になる。
すると健吾さんは徐に小麦粉と書いてある袋を逆さまにし、勢い良く中身をボウルに放り込んだ。
途端に白い粉が宙に舞い、ボクの視界を遮る。
「―――はうっ、んっ……ケホケホッ、うぅ…健吾さん前が見えなくなっちゃったよ!?」
咽せるボクを尻目に、健吾さんはゲラゲラと笑いながら鼻を擦る。そうしたらお約束のように白い粉が彼のお鼻の先に付着した。
ここは笑っちゃいけないと思うのに、得意げな健吾さんの顔を見るとボクは堪えきれなくなる。
「ふふっ……健吾さん、お…お鼻にお粉がっ……」
「笑ったなぁ? 仕返しだ、チィもこうしてやる!」
そう言うなり健吾さんは粉まみれの手を、ボクの頬に擦り付けようとした。だけど寸でのところで躱し、また捕まってはいけないと素早くその場から逃げ出す。
なのに驚くほど俊敏に動く彼には敵わず、ボクは呆気なく拘束されてしまった。――と、その拍子に肘がボウルに当たり、派手な音と共に小麦粉を床に散撒いてしまう。
けれどそれに気を止める余裕はなかった。
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