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第156話

だけどボクは早く和之さんに知らせに行かなきゃという使命感に駆られ、その手を何とか押し退けて彼にも事情を説明しようとした。 「健吾さんっ、違うの! あのねっ、あそこ!ほら、あそこにゴキッ―――…」 「―――うわああああぁぁッ!?」 全てを言い終わらない内に健吾さんは何故か悲鳴に近い雄叫びを挙げ、びっくりしたボクは思わずキョトンと呆けてしまう。 どうやら健吾さんは名前を聞くのも嫌なほど"アレ”が苦手なようで、涙目になりながらも大きな身体でボクに縋りついてくる。 「チッ……チィ! その名前は言っちゃダメなんだぞっ、"アレ”は悪のモンスターなんだ! ヘタに手を出せば襲ってくるんだからなッ!?」 「………う?……」 懸命にボクの背後に隠れてぷるぷると震える彼の姿は、まるでちっちゃい子がお母さんの陰に隠れてるみたいだ。 そう思うと途端に自分にはないハズの母性本能がぽわぽわと目覚め、意味のわからない新たな使命感にキラキラ瞳を輝かせながら健吾さんを励ます。 「だいじょぶだよ健吾さんっ! ボクがヤッつけてあげるからね!!」 ボクは地下室に長い間とじ込められていたからか、虫全般は全然平気でちっとも怖くない。手近にあったフライ返しを手に取り、勇ましく"アレ”に近づこうとした。 でも健吾さんは怯えてワケの分からない言葉を口走るばかりで、ボクを抱き締める腕を一向に離してくれない。 「健吾さっ……離して? これじゃやっつけれないよ」 「ダッ、ダメ~ッ!! チィだって敵いっこないよぉ! あいつら恐竜がいた時代から生きてるんだよぉ!?」 「うぅ? 意味わかんないよっ、健吾さ……逃げられちゃぅ…から、離…してっ」 どんなに宥めて説得してみても離れない健吾さんに痺れを切らしながら、ボクは"アレ”の姿を目だけで探す。 だけど黒い物体は気がつけばボクたちの直ぐ足元の方まで侵略していた。その瞬間、驚いたのはもちろん健吾さんだ。 まるでこの世の終わりを迎えたような悲鳴を挙げ、周りにある料理器具を手当たり次第に投げ始めた。 彼の傍にいたボクはフライ返しを両手で握り締めたまま、呆然とそれを見つめる。 なんとか止めようと恐る恐る声を掛けるのだけど、健吾さんは一心不乱に物を投げるので忙しいのかこちらを見向きもしない。

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