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第159話

食事のマナーをまったく知らないボクは彼女を少しは見習おうと思って、背筋をピンと伸ばしフォークとナイフを握るが夜の窓に写る自分の姿があまりに貧相で見窄らしく、直ぐに恥ずかしくなって止めてしまった。 「ところで虎子! さっき煌騎くんから聞いたんだけど、あんた白鷲のチームに入る事になったんだって?」 虎汰の追加メニューの焼肉盛り合わせ定食をテーブルに置きながら、虎子ちゃんのお母さんの優子さんが嬉しそうに言う。 それは初耳だったボクは慌てて彼女の方を振り返る。 「そなのッ!? あれ、でも虎子ちゃんは"白夜”っていうチームに入ってたんじゃ……」 「そう! けどこいつッ、あの奨さんに推薦されてウチのチームに入る事が決まったんだゼ!!スッゲーだろ~♪」 虎汰が横から少し興奮したように話してくれる。まるで自分の事のように喜んでいて、その姿はちょっと誇らしげだ。 けど先走ってるのか話がよく分からいところがあり首を傾げたけど、とりあえず"へぇ”と相槌を打ちながらボクは虎子ちゃんをずっと見つめていた。 前にどうして彼女だけが違うチームに入っているのか、疑問に思って尋ねた事があったからだ。白鷲には身内でもある虎汰もいるし、密かに想いを寄せる流星くんもいる。 それに見た限り虎子ちゃんは毎日、好きで彼らのたまり場へ足繁く通っているようにも見えた。 けど彼女がチームに入れない理由のひとつに、“白鷲は誰であろうと女は除外する”という伝令があったのだ。 それは虎汰と虎子ちゃんが憧れる5代目総長、桂木 奨という人が決めた掟だった。 そしてもうひとつの理由……。 それは女という理由だけで疎外され、チームに入れて貰えないことに酷く憤りを感じて自暴自棄になっていた頃、白夜の現総長と出会い救われたからだと彼女は教えてくれた。 今の虎子ちゃんが自分らしくいられるのは、その彼女のお陰なんだそうだ。なのにそのチームを抜けてこちらに入るというのだろうか……? まさか強制的なものが何か働いたのかと心配になったけど、そんなのはボクの杞憂だったようで彼女は笑顔を溢し、純粋に喜んでいるようだった。 「えっへへ~、実はそうなんだ~♪」 「流石は私の娘ね!あの掟ができた時はちょっと心配したけど、あれを覆すのはアンタしかいないと思ってたから安心したわ」 「もぉ~、ママ親バカすぎ! でも……そうね、これからは白鷲の虎子として堂々とチィの力になれる。私はそれが純粋に嬉しいかも」 上機嫌の優子さんに頭を撫で回されながら、嫌がる素振りも見せず虎子ちゃんが明るく言う。 それを聞いたボクは嬉しさのあまり、「ボクも嬉しいよっ」って叫んで彼女に抱きついてしまった。 それからおめでとうと祝福する。 今この時期でのチーム加入にどれほどの意味があったかなんて、そんなの微塵も考えずにいた。 この時はまだ知らなかったのだ。自分がどれだけ周りを不幸に貶める厄介な存在なのだということを……。 知っていれば或いはまだどうにかできたのかもしれない。なのに無知で浅はかなボクは深く考えず、その日店が閉店するまで、虎子ちゃんを心から祝ってあげていたのだった―――…。

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