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第162話〜あいつには敵わない〜(和之side)

それはあまりに突然の事だった―――…。 「―――いやああああぁっ! 助けてえええぇッ!!」 閉店時間を少し過ぎた頃、食事の合間に眠ってしまったチィを起こしたら可哀想だからと長椅子に横たわらせ、そのまま寝かせてあげていたら突如悲鳴を挙げて目を覚まし、ものすごい勢いで暴れ出してしまったのだ。 幸い他の客は既に帰ってしまっていて俺たち以外に店は誰もいなかったが、気が動転した俺は条件反射でチィの細い腕を強引に引き寄せ、後ろから羽交い締めする形でその小さな身体を抑え込む。 「ちょっ、チィッ! おっ、落ち着いて! ここで暴れたら怪我するから……くっ、頼む…少し落ち着いてくれッ!!」 肘などに当たったガラスのコップや食器類が床へと落ち、次々に割れて粉々になっていく。このまま狭い場所で暴れてはチィが怪我をし兼ねない。 けれど取り乱したチィの力はハンパなくて、腕の力を少しでも緩めれば逃げられてしまいそうな勢いだった。 「どうしちゃったんだよチィッ!? 今ここには俺たちしかいないよ? 不安になることなんか何もないからっ」 「チィお願いだから聞いて? あんたは私たちが必ず守ってあげる! だから怖がらないでっ、ね? ちょっと落ち着こ?」 虎汰や虎子ちゃんも必死に呼び掛けてみるが、彼の目には俺たちの姿など写っていないのか虚ろだ。ただ泣き叫びながらひたすら誰かに助けを求めている。 こんな時に煌騎がいれば良かったのだが、あいつは愛音とかいう女との約束を律儀に守るため数分前に店を出たばかりだ。 「クソ! こんな時に健吾さんも急患だとか言ってさっき呼び出されちまったし、どうすりゃいいんだよッ」 「―――バカッ、怒鳴るな流星ッ! なに余計に怯えさせてんだっ!!」 苛立ちも露に流星が叫ぶ。それを咄嗟に朔夜が注意するが、それすらもチィは怯えてもう手がつけられない。 俺の腕の中で怯えていた小さな身体がビクンと跳ね、更に取り乱し渾身の力で暴れ出してしまった。 軽く舌打ちしたい気分になったが、これ以上は彼を怯えさせたくはない。俺は必死に彼を抱き締める腕を強めた。 騒ぎを聞きつけて厨房から出てきた双子の親父さん、虎治さんが優子さんに直ぐさま煌騎に連絡を入れるよう指示をする。 だがそれに気を取られている間に隙ができてしまい、俺はチィに逃げられてしまう。あっと思う間もなく、彼は誰もいないテーブル席の下へ潜り込んでしまった。

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