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第163話
そこは大柄な俺や朔夜、そして身長も体躯も桁違いな流星などは入れず手すらも届かない。
虎汰はもちろん女の虎子ちゃんや優子さんでさえも、ソファやテーブルが邪魔をして容易にはその下に潜れなかった。
それらを動かそうにもその隙にチィには素早く逃げられるだろうし、それなら割れたガラスなどが散乱する床を歩き回らせるよりはこのまま、零着状態が続いて力尽き気を失ってくれた方がまだ安全だ。
そう考えている間にもチィはどんどんと奥へ逃げてしまい、遂にはソファの下のほんの僅かなスペースに嵌り込んでしまう。
今の彼は尋常じゃない……。
とにかくこれ以上は刺激しないようにと慎重に周囲を皆で固め、出てくるよう説得を試みたがやはり怯えてパニックを起こしているチィの耳には届かなかった。
「うぅっ、ヒック……コウちゃ…コウちゃん助けてぇっ、怖いよぉ……ヒック、コウ…ちゃあぁんっ」
彼は悲痛なほどに泣き叫び、必死に誰かの名を繰り返し呼んでいる。確かそれはチィが監禁されていた時に寂しさのあまり、頭の中で創り上げた架空の人物の名だ。
ということは、彼は夢の続きだと錯覚を起こしている可能性がある。こんな事は専門外ないのでどうしたらいいかと考え倦ねていると、外からけたたましいブレーキ音が鳴り響いて店先に停止した。
それから間を置かずに店の扉が激しい音と共に開け放たれ、血相を変えた煌騎が息も荒く店内へと入ってくる。
何故か俺は奴の姿を確認した途端、ホッと胸を撫で下ろしてしまった。これでチィの止めどなく流れる涙を止めてやれる。
男としてのプライドが微かに疼いたが、初めから彼の瞳には煌騎しか映らなかったのだから、それを言っても仕方がない……。
俺はチィが守れるなら何でもいいのだ。
他 人 よりも辛い経験をし、己を守る術 も持たずに生きてきた純粋すぎる彼を、ただ幸せにしてやりたかった―――…。
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