164 / 405
第164話〜お胸が痛いの〜
遠くの方でバタンッという音が響いた。
瞬時にボクは身を縮こまらせ、"ごめんなさいごめんなさいごめんなさい”と繰り返す。あれはいつも不機嫌な『管理者』さんが地下室に降りてくる時の音に似ていた。
……ううん、違うのかもしれない。
地下室の扉はもっと重そうな感じだったような気がするし、鈴の音なども鳴らなかった。
わからない、ボクは今……ドコにいるのだろう……?
さっきまではとても幸せな夢を見ていた気がするのに、最後の方がどうしても思い出せない。ただ何故だか、ここから早く逃げ出さなきゃと思ったのだ。
だけど今はそんな事どうでもいい。
もっともっと謝らないと、ボクは『管理者』さんにまたいっぱい殴られる。たくさんたくさん謝らなきゃ許して貰えない。
怖い、……怖い、………誰か、助けてっ!!
心の底からそう願うけれど、ボクなんかを助けてくれる人はもうこの世にはいない。
ずっとずっと昔に一度だけ助けに来てくれた人がいたけど、『管理者』さんに見つかって真っ黒な水鉄砲に似たやつで殺されちゃった。
そういえばあの人も面影がコウちゃんに似てた気がする。大人になったらコウちゃんも、こんな風になるのかなって何となく思った。
でも死んじゃった、一瞬で……、赤い血がいっぱい出てた。………だから死んだんだと思う。
もうどんなに望んでも助けは来ないんだ。ボクはこの長い月日の中で、嫌というほどそれを思い知らされた。今日はどれだけ殴られるのだろう?
どれだけ虐められるかな……。
ねぇコウちゃん、今すぐボクを助けに来てよ。昔あんなに約束したじゃない―――…
「チィ、そんなところで何してる? かくれんぼか?」
ブルブルと暗闇の中で震えていたら、同じ目線くらいの高さから男の人の穏やかな声が聞こえてきた。
恐る恐る顔を見上げたら、そこには見覚えのある人の姿がちらりと視界に入る。
―――あぁ、煌騎だぁ……。
その時になってようやくボクは理解する。頭ではなく心で、彼があの求めていた"コウちゃん”だったのだと……。
彼だけがいつもボクの存在に気づいてくれる。
そして、昔から傍にいて励ましてくれていた。
そっか、そこにいたんだねコウちゃん―――…
ともだちにシェアしよう!