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第165話
煌騎は床にどっかりと腰を下ろし、胡座をかいてこちらを静かに覗き込んでいる。それからボクを落ち着かせるよう優しく微笑むと、そっと手を差し伸べてくれた。
「ほら、こっちに来い。もう大丈夫だから……な?」
でもボクはブンブンと首を横に振る。本当はすぐにでも煌騎の元に行きたい。だけど彼の顔を見た途端に緊張の糸が切れたのか、身体が動かなくなってしまったのだ。
パニックになったボクは、先ほどから息苦しかった呼吸が更に荒くなる。
「煌騎ぃ……ヒック、助け……てっ、苦し……息がっ、できなっ…の……ハァハァ」
手足が痺れて既に自力では彼の元へ行くのも困難となっていた。
必死に手を伸ばすけど、後ちょっとというところで届かない。縋るように煌騎を見ると彼も悲痛な顔をしていた。
「煌騎ぃ……こ…ぅ……き……助け……っ」
もうダメだと意識を手放し掛けた時、辺りがフッと明るくなる。何が起こったのかと思う暇もなくボクの身体は、瞬く間に煌騎の逞しい腕に素早く引き寄せられていた。
朦朧とする意識の中、周りを見ると虎治さんと和之さんと流星くんの3人が床に金具で固定されているテーブルを、無理やり力技で持ち上げていたのが見える。
「チィもう大丈夫だ、怖かったな。離れて悪かった」
声に反応し見上げるとボクをそっと抱き締め、優しく労るように背中を擦る煌騎が、申し訳なさそうに顔を歪めていた。
そんな顔はさせたくないのに、手を動かす余力すら残っていないボクは首を振る事もできない。
息ができずヒューヒューと喉の奥を鳴らしながら、涙でぼやける視界の中で優しい彼の瞳を見つめ続けるだけで精一杯だった。
「―――煌騎くん、これ使って!」
「あっ、待ってママ! それはダメッ―――…」
隣に膝をついた優子さんが彼に何かを差し出す。カサカサと音の鳴るそれは、おそらくお買い物をした時に貰えるビニール袋だろう。
ボクが過呼吸を起こすようになってから、健吾さんが何度もその時の対処法をみんなにも分かるよう説明していたので、傍らにいたボクもそれは知っている。
でも―――…
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