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第166話
昔はビニール袋を使って自分の吐いた息を、もう一度自分の体内に取り入れる事で呼吸を正常へ戻す方法があったらしい。
けれどそれは死亡事故が相次いだ為に医者が間違った対処法として警告し、現在では使われなくなった対処法だという。
それでも未だにその間違った方法が世間一般に浸透しているのは、過去にテレビのドラマや小説等でその症例が題材として取り扱われた為に、時を経た今も再放送や古書店などで本が売られ視聴され続けているからだそうだ。
だから優子さんが悪いワケじゃない。虎子ちゃんはそう説明してやんわりと彼女を止めた。そんなやり取りを煌騎は見向きもせず、ただボクだけを見つめ凄く思い詰めた顔をする。
そしてぎゅっと腕に抱く力を込めたかと思うと、耳許で小さく"離れてすまなかった”と呟いてそっとボクの唇に自分の唇を押し付けた。
「「―――ッ!?」」
詳しい事情を知らない優子さんと虎治さんは、彼の行動に驚いて短く息を呑む。
けど和之さんや朔夜さんたちが冷静に見守っている事から、これが煌騎流の対処法なのだと察してくれたらしい。すぐに二人も温かくボクたちを見守ってくれた。
「………ん……ンんっ………んぅ……ッ」
ピタリと重ね合わさった唇から吐き出した息を取り込み、鼻から逃がして彼自身の息をボクの唇に送り込んでくれる。
ゆっくりと優しく、そして労るように何度も角度を変えて啄むように煌騎は唇を重ねた。時おり緊張を解すように親指の腹で頬を擽られ、強張っていた身体は嘘のように解ける。
こうして煌騎と唇を合わせるのはもう3度目なのに、その度に胸が打ち震えて発作とは別に苦しくなる。止めどなく流れる涙をそのままに、懸命に彼から注がれる酸素を受け取ろうと呼吸を合わせた。
煌騎の息は驚くほどに甘くて心地良い。徐々に息が楽になってきても、ボクは唇を重ねることが止められなくて夢中で彼と舌を絡ませていた。
「あ~、そろそろ俺らのことも思い出して貰えるとありがたいんだが……?」
「…………んっ……んぅ…んっ!?」
しばらくしてコホンと咳払いをしながら、少し離れた場所にいた虎治さんが言う。
その声でやっと我に返ったボクは、慌てて絡めていた舌を彼から離した。途端ボクたちの間には銀の糸が垂れたが、それには構わずもたれ掛かった煌騎の胸から顔を上げる。
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