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第167話

身体も本当は少し離したかったのだけど、体力が既に残っていなかったのと、強固に抱く彼の腕によって阻まれたので仕方なくそのまま深く俯いた。 発作の時の対処法とはいえみんなに見られていたと思うと、ボクは顔を上げていられなくて真っ赤に染まったそれを隠す。 「フフッ、チィ顔が真っ赤よ?」 「あらあら、ホントだわ。可愛らしいわね♪」 虎子ちゃんと優子さんはそんなボクを見て微笑ましそうに笑う。恥ずかしくて堪らず更に俯くが、二人の笑みが濃くなるだけだった。 けれど煌騎はそれには動じず、まるで彼女たちの言葉など聞いていないかのように無視し、ボクを横抱きに担ぎ上げると近くのソファへ移動した。 そして慎重に下ろすと自分は床に膝をつき、くっつきそうになるくらいに顔を近づけてボクを覗き込んでくる。 「………チィ、もう息苦しくはないか?」 「う? うん……あの、でも……」 あまりの近さにまた顔が火を噴く。でもボクがどんなに照れても煌騎はやっぱり通常で、寧ろ心配そうに顔色を窺っていた。 それに気づいた途端、何だか物悲しい気持ちになる。彼にとってさっきの行為はやはり治療以外の何ものでもなかったのだと、なんとなく分かってしまったからだ。 途端に発作の時よりも胸がぎゅうっとなって苦しくなる。暗い表情をすればまた煌騎に心配を掛けるとわかっているので、決して面には出さなかったけれどそれがとても哀しかった。 「ははっ、頭がキレる"孤高の銀狼”とまで謳われたお前が、まさか惚れた相手の扱いに不慣れだったとはな……。意外だがまぁ所詮、煌騎も人の子ってことかぁ」 店の奥から虎治さんがモップを片手に戻ってきながら呟いた。見ると彼の手にはモップ以外にも掃除道具一式を携えていて、優子さんも机の上を片付けている姿が目に入る。 ハッとしてもう一度よく店内を見回してみれば、床やテーブルの上は自分が暴れたせいでもうぐちゃぐちゃになっていた。 途端に申し訳ない気持ちでいっぱいになったボクは、煌騎の腕の中からすり抜けて起き上がり手伝おうとするが、彼に止められて果たせなかった。 虎治さんや優子さんに目線で助けを求めても、笑顔で発作を起こしたばかりの子に手伝いなんかさせられないと言って断られてしまう。 代わりにボクと煌騎以外のその場にいる全員が片付けを手伝わされ、それを所在なく見守ることしかできなくて心苦しい思いをした。

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