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第168話
見兼ねた優子さんがこっそりとボクにテーブルを拭く布巾を手渡してくれたけど、それすらも目敏く煌騎に見つかって取り上げられてしまう。
しょんぼりしていると虎治さんが呆れたように肩を竦めた。
「そんなにチィが心配ならもう連れて帰ればいいだろう。つかデカイ図体したテメーが突っ立ってる方が邪魔だ!」
そう叱りつけられ、まさか自分が怒られるとは思っていなかったのか煌騎は一瞬目を見開く。けれど直ぐに頭を捻ると、澄ました顔で彼の提案に同意した。
「………わかった、そうする。すまないが和之、店先に停めてある俺のバイクを乗って帰ってきてくれるか」
「ん? あぁ、いいけど……お前らは何で帰るんだ?」
当然だけれど沸き起こる疑問……。
行きはまだ体力があったので煌騎のバイクに乗せて貰えたけど、帰りはさすがにもうあの大きな乗り物の後ろに乗れる自信はない。
実は乗って初めて気がついたのだけど、二輪のバイクは後ろに乗る方もそれなりに技術がいるのだ。彼からは『荷物になったつもりでそれに徹しろ』とだけ言われたが、意外にそれが難しかった。
それを踏まえて煌騎は自分の愛車を和之さんに委ねたのだろう。けれどバイク以外の乗り物は行きに使った白いリムジンしかない。
というのも彼付きの運転手はひとりしかいないので、実質1台と言わざるを得ない状況だった。
煌騎は車の運転もできるが、学生の身なのでもちろん免許はまだない。それにもし運転中にボクがまた具合が悪くなっても困るので、それも出来ないらしかった。
でもボクたちがそれに乗って帰ってしまったら、和之さん以外の者が帰りに困ってしまう。どうするのか静かに二人のやり取りを見守っていると、煌騎が懐からスマホを取り出した。
「向こうに着いたらまたここに車を寄越す。お前らはそれに乗って帰って来ればいい」
「ハァ………どうあってもチィを早く帰らせて休ませたいんだな。わかったよ」
和之さんはちょっと困ったような、でも彼がそうするだろう事をあらかじめ分かっていたのか、嬉しそうに微笑むとそれを了承する。
少し機嫌が良くなった煌騎はそれを顔に出さずに、手にしたスマホで山河さんを店先に呼び寄せ待機するよう指示した。
そしてボクを抱き上げるとみんなに先に帰るとだけ告げ、未練なく店を出る。
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