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第169話

その際に何故か虎子ちゃんや優子さんにこっそり“煌騎くんと二人っきりだね、頑張って!”と謎の応援をされた。けど何のことか分からなかったので、とりあえず曖昧に笑みを返しその場を取り繕う。 それから店の前に停車したリムジンに乗り込んだところで、ボクはその頑張る相手だろう煌騎に尋ねてしまった。 「……ねぇ煌騎、ボク何を頑張ればいいのかな」 「さぁな、あの母娘の言うことは気にするな」 さすがに煌騎も分からなかったらしい。 どう返せばいいのか困ったようで彼は苦笑いを零したが、ボクの頭をクシャクシャと優しく撫でるだけに留めた。 何だか釈然としなかったけど彼がそう言うならと、ボクも素直に先ほどの言葉を頭の片隅に追いやる。 車は静かにボクたち二人を乗せて走り出した。車内にはボクたち以外に年配の専属運転手、山河さんが一人いるだけ……。 でも彼は車の運転に忙しいのか一言も喋らない。必然とボクも口数が段々と減っていき、気が付けば車内は無音と化していた。 静かになると先ほどの光景が鮮明に思い返されて、顔が熱くなり無意識に下を向いていく。するとそんなボクの異変に気づいた煌騎が、心配そうに此方を覗き込んできた。 「どうしたチィ、随分と大人しいな。眠いなら俺の肩に凭れ掛かっててもいいんだぞ」 「ううんっ、だいじょぶ! 着くまで我慢できるよ」 彼にしてみれば気を利かせたつもりなのだろうけど、煌騎に意識しまくりのボクは慌てふためくばかり……。 (何だろう、このドキドキ……) 初めて経験する胸の動悸にボクは戸惑いが隠せなかった。煌騎の隣にいると思うだけで、胸が破裂しそうになるほど激しく鳴る。 けれどその原因は自分でもわかっていた。 だってどうしてもさっきの感触や記憶が甦り、頭からちっとも離れてくれないから……。 この間までは何ともなかったのに、二人きりになってしまうと意識せずにはいられなかった。ボクはなんて鈍いんだろう。 ボクはやっぱり虎子ちゃんの言う通り、煌騎のことが好きなんだ……。

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