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第171話
聞いてしまって後悔する。どうとでも取れる素っ気ない彼の返答に、けれどボクはやっぱり落胆した。
何かもっと違う言葉を掛けてくれたなら、胸の内をすべて打ち明けられたのに……。
そこまで考えてハッとする。
ボクは彼に何を打ち明けるというのだろう?
煌騎には既に愛音さんという可愛い許嫁がいる。もしこの気持ちが本物だとしても、その想いは決して報われることはない。だってボクは男の子だもん。
それにこの身体はいっぱい穢れてる。
たくさんの男の人が触れたから……。
囚われていた地下室でボクは生きる為に"あの行為”を受け入れた。本来ならばあれは想いが通じ合った者同士が交わすものなのだということを、外の世界へ飛び出してから学んだ。
なのにボクは知らないおじさんや、ボクから見たらおじいちゃんと言っても支障がない年齢の男の人とも交わってしまった。
こんな身体じゃ煌騎に想いを告げる事なんてできるハズもない。いや、本当は傍にいる事さえ許されないんだ。
でも虎子ちゃんは気持ちが報われなくても密かに想うだけで、その恋にはちゃんと価値があると教えてくれた。
ボクは住む場所や食べるもの、着るものもすべて彼に与えて貰えた。だからもう充分だ。これ以上を望むのは贅沢だよ。
深呼吸してそう心を落ち着かせると、ボクは煌騎の顔を真っ直ぐに見上げた。
「……ヤじゃ…ないよ。だってアレは応急処置だったんでしょ? それに…んと……もしそうじゃなかったとしてもボク、煌騎になら……何されてもいーよ」
それは単に信頼を寄せるからだと匂わす為に、敢えて満面の笑顔でそう答える。彼の感じる負担を少しでも軽くしたいから……。
ボクなんかがこっそりでも想いを寄せていたら、煌騎だってイヤな思いをするに違いない。
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