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第174話〜甘い果実〜(煌騎side)

店を後にした俺たちはすぐさま闇夜に浮かび上がる白いリムジンを見つけ、足早にそちらへと向かった。 虎治さん優子さん夫妻の経営する店先にも車の駐車スペースがあるにはあるが、俺の所有する車は通常のスペースでは収まりきらない為にこの先の大きな公園の駐車場に停め、そこで待つよう指示してある。 外で待機していた年配の運転手の山河は、俺たちの姿を確認すると左後部座席の前に立ち、ドアの前まで来ると恭しく開けた。 乗り込む際に俺は先ほどの件を話し、折り返し流星らを迎えにいくように頼む。山河は"承りました”と丁寧に頭を下げてからドアを閉め、運転席に戻ると車を静かに発進させた。 車が走り出してから数分後、隣を見るとチィが気の所為か少し元気がない。車内に乗り込んで直ぐは饒舌に話していたのに、他に話す者がいないせいか口数が徐々に減っていき、遂には何も話さなくなってしまった。 「どうしたチィ、随分と大人しいな。眠いのなら俺の肩に凭れ掛かっててもいいんだぞ」 「ううんっ、だいじょぶ! 着くまで我慢できるよ」 体調を気遣い自分に凭れ掛かるよう促してみるが、チィは遠慮しているのか間髪入れずに断られてしまう。仕方がないので半ば無理やりにチィの肩を抱いて引き寄せ、俺の腕の中で休ませる事にした。 ここ数日でチィが俺の心音を子守唄代わりにしているのを知っていたからだ。その肩は何故かビクンと跳ねて強張り、少しばかりの抵抗を示した。 だが程なくして小さな身体からは緊張が解け、俺にすべてを預けてくる。 内心ホッとしたが初めての抵抗に俺は動揺が隠せない。注意深くチィを観察していると、車に乗り込んだ時から頻りに己の唇を指先で触れていた事に気づく。 それを見た瞬間、どうしてだか心が浮き立つような喜びを感じた。もしかするとチィは俺と唇を重ねたことを喜んでくれているのかもしれない。 そう思うと顔がだらしなく緩む。けれども顔を覗き込めば、チィの瞳は複雑に揺れていた。それは嫌悪からではなく後悔の念や申し訳なさなどが滲み出ていて、少なからず俺はショックを受ける。 チィは素直に喜んではくれないのか……? こいつは出逢った時から俺に惹かれているのだと思っていた。それは過度な自惚れなどではなく、本能的なものからくる確信だった。 漸く失われた片翼を見つけたような感覚を、チィも感じてくれているハズだと勝手にそう思っていたのだ。 今もその確信は変わらず、揺るぎようもない。だがチィはそれをひた隠しにする。 この俺に―――…。 どうしてだかそれが無性に許せなかった。 「……………イヤ、だったか?」 「……ヤじゃ…ないよ。だってアレは応急処置だったんでしょ?それに…んと……もしそうじゃなかったとしてもボク、煌騎になら……何されてもいーよ」 意地悪に尋ねてみれば、チィは頑なに違うと言う。そして幼子が親に寄せる信頼の眼差しを俺に向ける。 その瞬間、俺の中で何かが……キレた。 気がつけばジリジリとチィを追い込み、強引にその華奢な身体を組み敷いてまだ成熟しきっていない、甘い果実のような唇を貪っていた。 角度を変えながら、俺は何度もチィの甘美な唇を味わう。口を開いた隙をついて舌をねじ込み、口内で逃げ惑うチィの舌に根本から絡みつかせる。 初めこそ抵抗していたそれは段々と緩慢になり、次第に俺の動きに合わせるようになって恐々とだが自ら舌を絡め始めた。そんな可愛い仕草をされたら後は止まらない……。 俺はチィを保護してから毎日隣で無防備に眠るこいつの姿を見続けていた。それだけに俺の理性は脆くも崩れ去る。

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