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第178話
「もう飯の準備が出来てる。早く行かないと和之に叱られるぞ」
少し急かすようにそう言うと、煌騎は空いた手で点滴を吊るしたキャスター付きのポールを押しながら、入り口の方に向かって歩き出す。
なんだか誤魔化された気がしないでもないが、ご飯を毎日作ってくれる和之さんの名前を出されると、極端に弱いボクは渋々とだけどそれに従った。
でも諦めきれないボクは尚もしつこく食堂の席に着くまで、その押し問答を繰り返す。
先にきていた周りのみんなはそんな経緯を知るハズもなく、ボクたちのやり取りを不思議そうに首を傾げながら見ていた。
「どうしたのチィ、あんたが煌騎くんを質問攻めにするなんて珍しいじゃない」
物珍しそうに部屋の隅にいた虎子ちゃんが尋ねてくる。
彼女は昨日別れた時と同様、学校指定の制服を身に付けており、それで漸くボクは窓の外に目を向けて夜が明けている事に気がついた。
けど今はそんなことよりもと、虎子ちゃんの方へと直ぐに目線を戻す。
「いた! 虎子ちゃん絶対にかわいい!!」
「……え、なになにっ!? どしたの?」
スゴい剣幕で彼女を見た為に虎子ちゃんは何か不穏な空気を感じたのか、1歩2歩と後ろへ後退した。
それでもボクは構わずに煌騎を得意顔で振り返る。
「ねぇ煌騎、虎子ちゃんは? 虎子ちゃんかわいいよ、ボクみたいにチュウする?」
絶対的な自信があるだけに自信満々で尋ねた。だけど彼の顔は瞬時に凍りつき無表情となる。
何かマズイ事を言ってしまったのかとすぐに後悔したけど、既に遅く煌騎はボクを床に下ろすと無言で虎子ちゃんのいる方へと歩いていった。
そして隣に並ぶと何の感情も示さない表情のまま、こちらを睨むように振り返る。
「…………いいんだな、しても?」
「―――う?」
静かな怒りを湛えた声音でそう尋ねられ、ボクは言葉を失う。直ぐに心の奥に浮かんだのは、自分以外にチュウはして欲しくないという感情だった。
虎子ちゃんは大切なお友だちだけど、彼と並んだ姿を見た瞬間ソワソワして胸がモヤモヤする。けど煌騎から滲み出る不機嫌なオーラはボクを萎縮させ、言葉を噤ませた。
下唇をぎゅっと噛み、俯いてしまうとキッチンから出てきた和之さんがボクの横に並ぶ。
「……どうした? 二人の間で何があったの」
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