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第180話

渋い顔をしたまま煌騎は深い深い溜め息を吐くと、抗うのを諦めたのか虎汰の腕を掴んで強く自分の方へ引き寄せた。――が、まさに二人の唇が重なり合おうしたその瞬間、遅れて流星くんが食堂へと入ってくる。 何も知らない彼は目の前で二人の唇が触れそうになっているのを見て、一瞬目を見開き、そして次に何故だかムッとすると虎汰の襟首を引っ掴んで、強引に後ろへ引っ張ってしまった。 「煌騎てめぇっ、虎汰に何してんだッ!!」 「……え、なに今の……えっ、どゆコト?」 「あ~なるほど、そういう事か……。けどチィの為とはいえ、健吾さんも人が悪いなぁ」 流星くんは怒りも顕にして怒鳴り出し、当の虎汰はまだ状況が掴めていないのかきょとんとしたままだ。そんな中、和之さんは健吾さんの企みを察してボクの頭をポンポンする。 けれど今はそれどころではなかった。虎子ちゃんの時と同様、ボクは虎汰にも煌騎には触れて欲しくないと思ってしまったのだ。 流星くんが止めてくれて本当に良かったと、内心ホッとしていた。 それらすべてを見ていた健吾さんは、達観した笑みを浮かべていたのは言うまでもない……。 「ひっでーよっ! 煌騎も健吾さんも……それからあとチィもッ!!」 先ほどから虎汰の怒りがちっとも収まらない。 あれからようやく事態を把握した彼は大いに憤慨し、危うくファーストキスを男に奪われるトコだったと怒りを撒き散らしたのだけれど、ボク以外の皆はそれに取り合わず何事もなかったように朝食を採った。 だけど学校へ向かうべく車に乗り込む際に、またも怒りが再沸騰しずっとこの調子なのだ。 煌騎は煌騎で不機嫌も露にそっぽを向いたまま、誰とも口を利かず腕と脚を組んでダンマリを貫き通している。 こちらはもうボクには手に負えないので、虎汰の方を何とか宥めたり機嫌を取ったりしてみた。でもよほど腹に据え兼ねたのか、許してくれる気配はない。 ほとほと困り果てていると、それを見兼ねた朔夜さんが呆れた口調で短く彼に言い放つ。 「………虎汰ウザい、少し黙れ」 「……うぐっ」 途端に言葉を詰まらせた虎汰は静かになった。 どうやら以前虎子ちゃんが言っていた通り、彼と流星くんが朔夜さんには絶対に逆らわないというのは本当だったらしい。

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