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第181話
ボクは尊敬の眼差しで見るも彼は既にノート型PCに顔を向けており、お礼を述べることは出来なかった。
「あれはいつもの事だから、チィもそんな気にしなくていいよ」
「―――う?」
タイミングを逃し落ち込んでいると、隣に座る和之さんがニッコリ微笑みながら言ってくれる。
そうしたらもうひとつ隣の虎子ちゃんもボクの頭に手を伸ばし、彼を真似てナデナデしてくれながら頷いた。
「朔夜くんは謂わば何かと暴走しがちなあいつらのストッパー的存在なの。だからいつもあんな感じ! チィが気にする事じゃないわ♪」
「………そ…なの……?」
目をパチクリと見開いて尋ね返すと、二人はクスクス笑いながらまたコクンと頷く。
おそらくいつまでも気にするだろう事を予測し、わざとオーバーに言ったのだろうが、疑う事を知らないバカなボクはそれをそのまま鵜呑みにする。
その時こっそりと朔夜さんがこちらを見て苦笑いしていたのだけれど、残念なことにボクはそれには気づけなかった。
「それよりも体調は大丈夫? 昨日は結局、倉庫に着く前に体力尽きて倒れちゃったんでしょ?」
そう言って虎子ちゃんが心配そうにボクの顔を覗き込む。頭を撫でていた手をそのまま頬に移動させ、労るように両手で包まれた。
でも何故か隣の煌騎が途端に咽せたように咳をしたので、皆が首を傾げて彼の方を見る。一身に注目を浴びた彼は、けれど平静を装って直ぐに“何でもない”と言ってまた窓の外を向く。
「………? 変な奴だなぁ。でもチィ、本当に無理だけはするなよ。健吾さんも今日くらいは休めって言ってたんだから……」
「だいじょぶっ、ボク元気!」
不審な煌騎を訝しみながらも、和之さんは尚もボクを気遣ってくれた。出掛けに健吾さんが登校するボクを引き止めていたのを気にしているらしい。
だけど眠ってる間に点滴もしてくれてたし、本当に無理はしていない。みんなに心配を掛けまいとガッツポーズをして、体力全快なのをアピールしてみた。
それを見て和之さんも虎子ちゃんも苦笑いを浮かべたけど、ボクの熱意に負けて説得するのは諦めたようだ。
最後に頭をポンポンと撫でると、虎子ちゃんが釘を指すように顔を覗き込んでくる。
「ちゃんと体調が悪くなったら私に言うのよ?」
「うんっ、わかったよ虎子ちゃん!」
ボクはそれにこくんと頷くと、満面の笑みで彼女に答えたのだった。
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