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第185話

「よかったな、チィ……」 そう言って煌騎がゆっくりと隣に座る。 そして『俺からはコレだ』と小さな何かをボクに手渡してくれた。 まさか煌騎からもサプライズを用意して貰えてるとは思わなかったので、びっくりしてキョトンと彼を見上げる。 すると握り締めたままの手をちょんと、長くてキレイな指で突つかれた。あっと条件反射で手のひらを開けば、そこには小さな銀色の鍵が光り輝いている。 おそらくは何処かの部屋の鍵だろうそれに、可愛いハート形にカットされた深緑のストーンと、同じくハート形の透き通った紫のストーンが二つ連なったキーホルダーが一緒にぶら下がっていた。 石はどちらも親指の爪くらいの大きさで、色は煌騎の瞳と同じものだった……。 よく見るとふたつのストーンには細かい細工が施してあり、表面に薔薇の絵が精密に彫られている。 「キーホルダーは昨日、虎治さんの店を出たあと露店で見つけて買った。お前に似合うと思って……」 「………スゴく、キレイ……」 ボクは一瞬にしてその石に惹き込まれてしまっていた。何だか懐かしい感じがする。以前にも同じようなものを持っていたような、そんな不思議な気持ちに陥った。 「その鍵は寝室のだ。あそこは今日からお前専用の部屋だから好きに使うといい」 「―――う?」 呆然とキーホルダーを見つめていたボクは、思わず顔を上げて彼を凝視する。だってあの部屋は煌騎の部屋だって聞いてたから……。 元々あの倉庫には小さいが幹部の部屋なるものが、各自一部屋ずつ1階に存在する。でも総長である彼の部屋だけは下に置かず、わざわざ2階の一番奥まったところにあった。 それは一人重責を抱えるトップにせめて寛げる空間をと考え設計されたもので、歴代の総長も引退するまで皆あの部屋を使っていたらしい。だから本来なら他の者は何人も入る事は許されないのだ。 そんな部屋に寝泊まりさせて貰っているだけでも申し訳ないと思うのに、煌騎はそれをボクに譲るという。 「ダメだよそんなのっ、こんなの貰えない!だってあの部屋は……っ」 慌ててその鍵を突き返すと、煌騎は静かに首を横に振った。そして無言のまま突き返した拳をボクの胸に押し返す。何故そうするのかわからなくて、ボクは揺れる瞳を彼に向けた。

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