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第186話
「鍵はお前が持ってろ」
「………ど…して……? どしてボクなんかにっ」
「さぁ、チィも自分の部屋が欲しいだろうと思ったからだが……他にも理由が必要か?」
「………ヤッ…ボク、こんなのいらないっ」
感情のままにボクは再度手を突き出していた。
嬉しいはずの言葉がどうしても素直に受け入れられない。
何故だかもうボクなんかいらないと言われているようで、急に怖くなったのだ……。
がむしゃらに首を横に振って、愚図る幼子のようにいらないいらないと繰り返す。ボクは煌騎の事となるといとも簡単に取り乱してしまう。我ながら自分が情けないと思った。
「…………言い方が悪かったか、お前が望めば俺は何処へも行かない。ずっと傍にいる。だからもうそんなに怯えるな」
「―――っ!?」
煌騎は困ったようにそう言うと、パニックになったボクをぎゅっと抱き締めてくれた。突然の抱擁に短く息を呑む。
「お前にはいま帰るべき場所がない、 だから“それ”が必要だろうと思った。もしどうしても一人きりになりたくなった時の為に……」
更に抱き締める腕を強めながら、彼は溜息混じりに言う。まるでそれは己の言葉が足りなかった事を悔いているようだった。
でもボクにはそんな姿は微塵も見せまいと無理に口端を上げ、ニヒルな笑みを作る。
「それに…何をどう勘違いしてるのか知らないが、今まで通りあの部屋は俺も自由に使わせて貰う。だから心配するな」
「ふえ!? そっ……そぅ…だったの……?」
途端にボクは恥ずかしくなる。すべては自分の早とちりだったのだと知り、カーッと羞恥で頬を朱に染めて彼のシャツの裾を掴むと、周りからは笑いが起こった。
「チィは何にでも一生懸命だけど、いつもどっか抜けてんだよな~♪」
「あら、それが彼のチャームポイントなんじゃない。いつまでも私たちの可愛いチィでいてね?フフッ♪」
双子の兄妹が面白おかしくボクを揶揄する。
その隣では和之さんが朔夜さんに背中を凭れ掛かられながらもクスクスと笑い、その朔夜さんもいつもと変わらない表情に見えて口端が微かに上がっていた。
だけど流星くんだけは一人仏頂面だった。
みんな示し合わせたワケではなかったのだけれど、自分だけボクに贈り物を用意できなかったのが悔しかったらしい。
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