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第192話

和之さんにそう言われて流星くんは悔しそうに顔を顰めると、近くの壁に拳をぶつけ「ざけんなクソがッ!!」と声の限りに叫んで内に燻る怒りを鎮める。 それらは一瞬の出来事で、ボクには何が起こったのかすらわからない。でも和之さんの機転で何とか大きな問題は回避されたのだという事はわかった。 すると亜也斗が何がおかしいのかケタケタと笑い始める。緊迫した空気は彼によって瞬く間に気の抜けた雰囲気となった。 「ざ~んねーん♪ 後ちょっとで猪突猛進バカをひとり学園から追い出せたのになぁ」 「―――んだとっ、このヤロッ!!」 「ーーー流星ヤメろと言ってるだろうがッ!!」 またもや猛獣と化した流星くんが飛び掛かりそうになるが、和之さんは慣れた手つきで再び彼を止める。 それらを静かに見守っていた朔夜さんが微かに溜め息を零すと、下へ身軽に飛び降り彼も流星くんの前に立ち塞がった。 「………いい加減にしろ流星、お前は脳まで筋肉でできてるのか?」 もちろん彼の武器は力ではなく言葉の圧だ。 朔夜さんは彼の胸元にそっと右手を置き、真正面から目を見据える。 途端に流星くんはタジタジと焦りの色を見せ始め、ギリギリと歯軋りをしたかと思うとみるみる間に大人しくなった。 「なんだよ陣馬ぁ~、“狂犬”の異名を持つワリにはお前も大したことないな~?」 亜也斗が尚そう揶揄しても今度は朔夜さんがいる手前、流星くんもキレることはもうない。ただ悔しそうに拳を握り締めて懸命に堪えていた。 それを労うように和之さんが流星くんの肩を数回ポンポンと叩く。よく耐えたと……。 「亜也斗ッ、いい加減にするのはお前の方だ!この事は当主にも報告させて貰うからな!!」 「フーン、ご勝手に~♪」 戒めるつもりか青い髪の男がそう言っても、亜也斗はどこ吹く風でまったく取り合わなかった。事態が収束したのを見届けると後は興味を失ったのか、目の前の扉を開けると中へ入ってバタンと閉める。 その直前、彼はチラリとボクの方へ視線を投げ掛けてニヤリと笑った……。 先ほど問い掛けた質問に対する返答を求めるような、そんな眼差しだった。おそらくボクに選べと言っているのだろう。新たな『飼い主』を誰にするのかを……。

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