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第198話

実際には彼がそんな事を思っている筈がないのに、マイナス思考にとり憑かれた今のボクはその考えが正しいと思い込んでしまう。 そんな風に考えているとは露にも思わない煌騎は、既に別の話題を話す虎汰たちに耳を傾けていた。 つられて顔を上げれば隣ではもう時期テスト週間だとか、テスト勉強はキライ、頭が痛いだとか虎汰ひとりがギャアギャアと騒いでいる。 おそらく彼も元気がなくなったボクの為に、無理してはしゃいでいるのだろう。 その証拠に煌騎や虎子ちゃんも虎汰を小馬鹿にしたりからかう割に、穏やかで見守るような眼差しを彼に向けていた。 「チィ、何度も言うけど私から離れすぎないで?」 午後の授業開始を報せる鐘が鳴り終わった頃、トイレに行きたくなったボクは虎子ちゃんに付き添われて屋上から一番近い、下の階のトイレへと向かっていた。 虎汰のお陰で少し元気を取り戻せていたボクは、いま絶賛練習中の“スキップ”を鼻歌を歌いながらやるが、これがなかなか上手くいかない。 未だに上手く動かず麻痺の残る右脚が出遅れて、下手をすれば転けてしまいそうになるのだ。 でも杖を使えばできない事はないと健吾さんに教えて貰ってからは、挫けそうになってもがんばって練習を続けていた。 夢中になって“スキップ”をしていると、ついついボクは虎子ちゃんから離れすぎてしまっていたらしい。 「あうっ、ごめんなさい。でもスキップ難しいね?」 「ふふ、諦めなきゃその内上手にできるようになるわよ。がんばれ、チィ♪」 「うんっ、ボクがんばるッ!」 励ますように言う虎子ちゃんに強く頷き、また前を向いてスキップを踏もうとした時、前方から最近はよく見慣れた紫の髪色をした男が近づいてくるのが見えた。 途端にボクは虎子ちゃんの後ろへと隠れる。 「性懲りもなくあんたまた来たの? どれだけ暇人なのよ、本当ウザいったらないわね」 ボクが背後に隠れたのを確認した後、彼女は威嚇丸出しの鋭い眼差しで彼を睨みつけた。 その視線の先にいる亜也斗は痛くも痒くもないという顔で、こちらをニヤニヤ見ながら前へ立ち塞がっている。 ここ何日か煌騎たちの目を盗んでは、彼は毎日のようにボクの所へとやって来ていた。もちろんその事は既にみんなに伝えてあるし、それでこその今の厳戒体制なのだと思うけれど……。

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