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第203話〜長い夜の始まり〜
「ヒマだああぁっ……ヒマ過ぎるよぉっ! な~、朔夜ぁ! 何か面白いことねーのかよおおぉッ!!」
三人掛けソファの上でゴロゴロと虎汰が右に左にと転げ回るのを、ボクは先ほどから苦笑いを浮かべながらそっと見守っている。落ちそうで落ちないのがまたハラハラして面白いのだ。
学校が終わり倉庫へと戻ってきたボクたちを出迎えてくれたのは、ひとり黙々とノートPCに向かう朔夜さんだけだった。
足を忍ばせ何の前触れもなくドアをバンッと開けて室内へ入ってきたにも関わらず、彼は相変わらずの無表情でそれを華麗にスルーした。
今もヒマだと喚き散らし駄々を捏ねる虎汰を無視し続けているのは、もはや強者としか言いようがない。ただひたすらにキーボードの上を、細くて長いキレイな指を走らせ続けていた。
「ちぇっ、無視かよ! 今日は和之も流星もいないからマジつまんねー、煌騎もどっかいっちまうしよぉ」
虎汰がぼそりとそう呟く。彼の言う通り煌騎は帰宅途中にスマホが鳴り、倉庫の前でボクたちを降ろすとそのまま出掛けてしまったのだ。
少し見えてしまったのだけど、スマホの液晶画面に表示されていたのは『親父』さんだった。
その人は理由もわからず忽然と姿を消した父親の代わりに、彼の面倒を見てくれている人だと前に教えて貰っていた。煌騎にとってその人は大事な恩人さんと言ってもいい。
そんな人からの急な呼び出しに、けれどボクを気遣ってか煌騎は出掛けるのを最後まで渋っていた。
なのでボクの事はいいからと一緒に降りようとする彼の背中を押し、無理やり車に残して笑顔で送り出したのだった。
ホントはすっごく寂しかったけど、煌騎にはちゃんと恩人さんを大事にして欲しかったから我慢した。
今夜は和之さんも実家に帰っているし、流星くんは当番で繁華街を見回りに出ているらしくこの場にいない。
でも倉庫内には煌騎たちを慕うチームの子たちもたくさんいるし、何より虎汰と朔夜さんもいる。
煌騎がいなくても寂しくないと言ったら嘘になるけど、彼らがいると思うだけで十分に心強かった。
「チィ、そろそろ寝る時間だ。向こうへ行って休め」
和之さんが作り置きしてくれた夕飯も食べ終わり、まったりと寛いていると朔夜さんがムクリと顔を上げ、壁時計を仰ぎ見てボクにそう告げる。
そして隣の寝室を顎で指してリビングの退室を促してきた。
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