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第204話

煌騎専用の1人掛けソファに膝を抱えて体育座りをしていたボクは、ぷくーっと頬を膨らませ自身の膝に顔を埋める。 「ボクまだ眠くない……起きてちゃ……ダメ?」 僅かな希望を胸にコテッと首を傾げて朔夜さんにお伺いを立ててみた。屋敷を抜け出してからボクはまだひとりで眠った事がない。だから独りぼっちで眠るのがほんの少しだけ怖かった。 いつもは隣に優しい煌騎がいて、悪夢に魘されて飛び起きる度に声もなく泣いてしまうボクを、ぎゅっと抱き締めて寝つくまで背中を擦ってくれていたのだ。 甘えすぎてしまっていると自分でも自覚してはいるが、あの温もりを知ってしまったらもう独り寝などできない。今頃になってその事に気づき、煌騎を笑顔で送り出した事を死ぬほど後悔していた。 しかし願いも虚しく彼には無言のまま首を横に振られ、がっくりと肩を落とす。横で見ていた虎汰が苦笑いを浮かべると、寝転がっていた上半身を起こして徐に口を開いた。 「別にいいじゃんか、夜更かししても……。どうせ明日は休みなんだしさぁ」 「ダメだ、成長期が只でさえ遅れてるチィにそんな事はさせられない。身長は寝ている間に伸びるんだ」 まるで母親のように言う彼に、虎汰は苦笑いを深める。そしてせっかくフォローしてくれた彼に対し、朔夜さんはバッサリと切り捨てて頑なに首を縦には振ってくれなかった。 言葉を撥ねつけると半ば強制的にボクを寝室へ連れていこうと、腰を上げてこちらにゆっくり近づいてくる。 いつもボクに寝るよう促してくるのは和之さんだった為、今日くらいは大丈夫かと思ったのに……思わぬ強敵が現れた。 「やっ……やぁあっ……あっ、あううぅっ」 無駄な努力と知りつつもソファの上で微かに抵抗を試みたが、呆気なく朔夜さんの手によって首根っこを掴まれたボクは逃げ場を失ってしまう。 端から見ればその姿はまるで母猫が仔猫を住み処に連れ戻す時の仕草みたいだ。 虎汰はフォローも忘れて他人事のようにケタケタ笑っていたが、朔夜さんの手の中でぷらぷらとぶら下がったボクは不満も露に頬を更にぷくぅと膨らませた。 おそらく和之さんと仲の良い彼の事だ。留守中のボクの世話を事前に頼まれでもしたのだろう。普段の彼からはとても想像できないような行動力だった。 敵わないと観念したボクが抵抗を止めて自らの足で寝室へ向かおうとした時、リビング内に無機質な機械音が鳴り響く。

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