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第207話
だから自分は捨てられたのだと思った。
極限状態に陥った人の思考回路は支離滅裂で、あり得ない事まで考えてしまう。その事を知らないボクは、絶望感で打ち拉がれていた。だけど程なくして……、
―――バァアアンッ!!
外のドアが強引にこじ開けられた音がした。
それと共に複数の足音が室内になだれ込むような騒音が響き、それに混じって見知った声も隣の部屋からは聞こえてくる。
「あれあれ~? お姫さまを浚いに来たのに肝心の白鷲の姫がいないじゃ~ん」
あの声は亜也斗だ―――…。
途端に冷たい汗が背筋を流れる。
扉の向こうには朔夜さんがいるのにどうしたら良いのだろう。焦るボクを余所に隣の部屋は、怒気を孕んだ気がどんどんと充満していった。
「どういうつもりだ亜也斗ッ! こんな事してタダで済むと思ッ―――…」
―――バシィイイッ!! ガタガタッ、ガタンっ!!
「―――きゃうッ!?」
朔夜さんが言葉を発している最中に、何かがこの部屋唯一の入口であるドアにぶつかって大きな音を立てる。ボクは思わず悲鳴を挙げた。
ドアは頑丈な鉄製なので破られる事は決してない。でも硬いものがぶつけられたようではなさそうで、ボクの恐怖心をますます煽る。
震えながら部屋の隅に蹲り黙って外の様子を窺っていると、ドアの外側から朔夜さんの荒い呻き声が聞こえた。そこで初めて鉄の扉にぶつかったのは彼だったのだと思い至る。
「朔夜さ……ん? ど……どしたの、だいじょぶ?」
「―――開けるなチィッ! 俺がイイと言うまで絶対にこの扉を開けるんじゃないぞっ!!……くっ」
心配になり扉へ近づこうとすれば、またしても声を張り上げて朔夜さんに怒鳴られた。けれどその声を聞く限り、かなり無理をしているのが分かる。
どうしようどうしようと懸命に考えるのに、バカなボクは何の知恵も思い浮かばない。そうしてる間にも隣の部屋には更にたくさんの人がなだれ込む気配がした。もうボクたちに逃げ場はない。
「ねぇおチビちゃん、ソコにいるんだろう? さっさと出てきなよ、でないとコイツがどうなっても知らないよぉ?」
「―――グッ!……がはぁっ!?」
亜也斗の声と共に誰かが殴られ、蹴られる痛ましい音が扉の向こうから聞こえた。見えない事でより恐怖心を誘い、ボクは瞬く間に青褪める。
大事な人が今すぐソコで、亜也斗の手によって傷付けられている。そう思うと涙が止まらなかった。
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