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第208話

「亜也斗やめてよぉ、朔夜さんを……グス、虐めないであげてぇ……お願…ぃ……」 まだ自分に向けられる痛みなら我慢できる。でも大切な人が傷付けられるのがこんなにも辛く、耐え難いものだとは知らなかった。 これも外へ出て初めて知った痛みだ。こんな事になるならボクなんか外に出なきゃよかったんだと、深く後悔し始めた時だった。 「………チィ、大丈夫だっ……俺は大丈夫…だから、ソコで大人しく…ジッとしてろ……な?」 「でもっ…でもぉ……朔夜…さっ……痛い…痛いよぉ? ここ……開けて…い……?」 優しく諭すように朔夜さんが言う。だけど絶え間なく続く拷問のような暴行の音はボクには堪えられない。 彼は懸命に呻き声を抑えてくれていたけど、少しずつ這い擦りながら扉の前に近づけば耳へと届く。 我慢できなくなったボクはドアに縋りつき、開けても良いか朔夜さんに乞う。しかしその願いは聞き入れて貰えなかった。 「ダメに…決まってる……だろっ、俺があいつらに叱られるッ――グハァッ!?」 「弱い癖に意気がるなって~、せっかくおチビちゃんが出てきてくれるって言ってるのに……ねぇ?」 ボクが外に出る事を止めようとする朔夜さんに、亜也斗が容赦なく制裁を加える。 悲鳴をあげさせる為にわざと急所を狙っているのか、尋常じゃない苦痛の声を洩らす彼にボクは嗚咽が止まらなかった。 堪らずドアノブに手を伸ばせば、また彼は声を振り絞ってそれを止めた。 「チィッ、ダメだと言ってるだろっ! もう直ぐ和之たちが戻って来る。それまでは……堪えるんだッ!!」 意識が朦朧としながらも朔夜さんが、懸命にボクに思い止まるように言う。 もうどうしたらいいのかわからなかった。 頭の中がスゴく混乱していて、正常な考えもできなくなっている。 「煌騎ぃ……早く戻ってきてぇ……ヒック、朔夜さ…死んじゃう……よぉ、お願ぃ早くぅ……」 「くくくっ、おチビちゃ~ん誰に助け求めてんの? キミの為に奴がワザワザここまで戻って来る訳ないじゃ~ん。だってあいつは今頃、麗しの許嫁さまとイチャイチャしてるハズだしぃ~?」 縋るように煌騎の名を口にしたけれど、亜也斗にゲラゲラと笑われて思考が停止した。 彼が言うには煌騎は今夜、恩人さんにではなく愛音さんに呼び出され出掛けて行ったらしい。 だから何があってもここには戻って来ない、絶対にボクなんかを助けには来ないのだと亜也斗は言う。

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