209 / 405
第209話
そう言われてハタと気づく。確かに許嫁の愛音さんと男のボクじゃ比べるまでもなく、煌騎は彼女の方を選ぶだろう……。
やはり何の価値もないボクなんかを助けにきてくれる人は、もうこの世の何処にもいないのだと痛感してしまった。途端に自分の存在がとてもちっぽけなもののように思えてくる。
「おチビちゃんいい加減に出ておいでよ~。でないと俺、こいつ殺しちゃうかもよぉ?」
そう亜也斗は笑いながら言う……。
ボクは『管理者』さんによく似た彼が死ぬほど怖い。だけどそれよりも朔夜さんが死んじゃう事の方がもっと怖かった。
ここのみんなは何も持たないボクにとても良くしてくれて、それが嬉しかったのに今はボクの存在自体が大好きな彼らを傷つける原因となっている。
そんなのを見るのはイヤだった。ならこれから取る自分の行動はひとつしかない。ボクの中でようやく決意が固まる―――…。
「ボクお外に出てったら……ヒック……朔夜さんもぅ虐めない?」
「―――チィッ、駄目だッ……ガハァッ!?」
一際苦しそうな呻き声が扉の前に響いた。
ボクは慌ててドアの施錠をガチャガチャと震える手で開錠しようとする。けれど何度ドアノブを回しても扉はピクリとも動かなかった。
どうしてだかわからないボクは泣きながらも、ガチャガチャとドアノブを激しく回す。
「どして……?なんで開かない……のぉっ!? 早くっ、早くここ開けないと朔夜さん……死んじゃうかもしれないのにぃッ!!」
「あぁ、ちょっと待ちなよおチビちゃん。いま邪魔な障害物を取り除いてあげるから……さっ!」
亜也斗がそう言うと何かをどさりと蹴り倒す音が外から聞こえる。すると何の抵抗もなくなった扉は、ボクの力でも簡単に開閉できるようになった。
ひとつ深呼吸をすると思いきってドアを開け、顔だけを覗かせて辺りをキョロキョロと窺う。
いつもの部屋なのにそこは知らない男の人たちが密集していて、まるで別の部屋にいるような錯覚に陥る。
そしてゆっくり下に目線を降ろせば、血塗れになった朔夜さんの痛ましい姿が横たわっていた。
「―――朔夜さ……んッ、こんなに……いっぱい血がっ、ボクのせいで……ごめ……なさいっ」
「……あれほど外に出るなって、言ったのに……っ」
至る所から血を流し、悔しそうに顔を歪める朔夜さんを前にボクは居たたまれなくなり、下唇を噛み締めて俯く。
何を言われようと決意は変わらなかったが、そのせいで彼が心を痛めている姿を見るのは辛かった。
「さぁもう茶番はいいだろ? ほらおチビちゃん、こっちにおいでよ~」
意地悪く笑うと亜也斗がボクに手招きする。
その顔がとてつもなく恐ろしくて傍に近寄りたくなかったけど、行かないと朔夜さんが本当に殺されちゃうかもしれないから、ボクは我慢してそちらに脚を向けた。
だけどボクの脚は床に蹲る朔夜さんの手によって止められる。
ともだちにシェアしよう!