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第214話

バカみたいな話だが当時は俺もまだまだガキだった為にそれを鵜呑みにし、親父が望むならと愛音が裏で画策しているのを承知で婚約を承諾した。 この女にじわじわと真綿で首を絞められるように周りを固められるのは癪だが、これも運命と抗う事すらとうの昔に諦めている。――が、気に入らないものは気に入らない。 先ほどから置いてきてしまったチィの事も気になるし、そろそろこのくだらない宴とやらを抜け出したい。 何か策はないかと愛音にしなだれ掛かられながら思案していると、屋敷の外と内側が自棄に騒がしい事に気づく。 どうかしたのかと不審に思い古風な造りの庭先に目を向ければ、一際うるさいエンジン音がけたたましく辺りに響いた。 その聞き覚えのある騒音に俺は直ぐさま愛音の身体を押し退けて立ち上がり、襖を開けて外へ出ていけば家屋を囲む塀から黒い物体が乗り越え、この広い庭園に着地する。 そして横滑りしながら砂利を巻き上げ、砂煙と共にそれは停車した。 ―――フッ、やってくれるな……。 見覚えのある大きな黒い物体は間違える筈もなく俺の単車で、それに跨がる男もメットを被って顔は確認できなかったが、その襟足から覗く派手なオレンジの髪色は正しく和之のものだった。 「よぉ、待たせたか煌騎?」 悪びれる事なく脱いだメットを俺に投げて寄越しながら、全身黒ずくめのライダースーツを身に纏った和之がいつもの口調で声を掛けてくる。 だがその表情は昼に見る“それ”とはかけ離れ、鋭利なナイフのような冷酷な笑みを称えていた。 俺は思わず吹き出しそうになるが、奴がここまでの行動を起こす理由を鑑みて笑いを引っ込める。 「……………何かあったか」 「あぁ、お察しの通り亜也斗が動き出した。というより正確には吉良が……だけどな」 俺は僅かに顔を顰めた……。 いつか行動を起こすとは思っていたが、和之ほどの男にここまでさせる力量はあいつにはない。 所詮アレは主人に仕えて傅くことしかできない小者だ。駒のひとつに過ぎない。 そこまで考えて俺は後ろを振り返り、愛音の姿をその目に捉えた。今回の黒幕はあの女で間違いない。 それを証拠に先ほどから襖にもたれ掛かりながら、俺たちの様子をニヤニヤした目付きで眺めている。何かを知ったような面差しだ……。

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