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第217話
朔夜の心情を思うと塊を飲み込んだみたいに喉の奥が締め付けられ、俺は近くの壁を力一杯に殴り付ける。
「そ、それから虎子さんの情報なんですが……」
滅多に見せないその苛立ちに、大地は内心ビビりながらも話を先に進めようとした。それはチィを救出するなら一分一秒も今は無駄にできないからだ。
早くあの臆病で寂しがりなチィを助け出してやらなければならない。それは俺の願い、牽いては彼の事を慕うチーム全体の望みでもあった。
初めこそ警戒心も強くなかなか下の階の連中とも打ち解けられなかったあいつだが、自分に危害を向けられないと分かると直ぐに誰とでも別け隔てなく接するようになり、本来の明るい性格からかチィは皆に好かれていった。
―――あの愛くるしい顔を、また哀しい色の"ソレ”で染めたくはない……。
「虎子さんの報告によると実は、蛇黒のチーム内でいま妙な噂が立っているようなんです」
「妙な噂……?」
再び強く頷いた大地に目線だけで先を促す。
数日前から虎子たっての希望で、俺は蛇黒の内部をチームの男と付き合ってる女を通じて探らせていた。
決して深追いはしないという約束で許可したそれに、どうやら進展があったようで話に聞き入る。
「その噂というのが、もうすぐ蛇黒のツートップが日本を離れるというものらしいんです」
虎子の話によると女の間にまでその噂が拡散し、チーム内では解散の危機だと真しやかに囁かれているという。それを聞いて漸く俺は合点がいく。
問題を起こしても初めから日本を離れる気でいたのなら、迷わずデカい事もできるというもの。もしくはその逆か……。
どのみち奴は親の権力を使って事件を揉み消し、ほとぼりがさめるまで身を隠す算段なのだろう。ならばチィはこのまま奴と一緒に海外へ連れ出されてしまう危険性がある。
―――そんなことは絶対にさせないッ!!
漆黒の海を睨み付けながら俺はそう決意し、直ぐさまチーム全体にチィ捜索の伝令を出す。
「些細な事でもすべて上に報告しろ! あと和之が戻り次第、俺の元へ来るように伝えてくれ!」
「―――はいっ、了解ッス!」
大地は大きく返事を返すと深く頭を下げチームに伝令を回すべく、近くに停めてあった自分のバイクに跨りその場を去っていった。その後ろ姿を鋭い眼差しで見送る。
だがすぐに大地と同じように素早く単車に跨がると、俺は溜まり場である倉庫へと向かった―――…。
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