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第220話〜邪魔者は消えて〜(愛音side)

まったく、イライラする……。 あの忌々しい男さえ現れなければもう少し時間が稼げたというのに、ホント腹立たしいったらない。 お祖父様に強請って漸くあの子から煌騎を引き離せたのに、突如乱入した不破 和之によってまんまと彼を逃がしてしまった。 どうにも怒りが収まらず私は一人自室に篭り、先ほどから右手の親指の爪をずっと噛み続けている。 「いつにも増して荒れてるな、お嬢……ククッ」 「―――うるさいわよ神埼ッ!!」 不意に部屋の襖が開け放たれ無遠慮に中へと入ってきた男に、私は手元にあったクッションを思いっきり投げつけてやった。 けれど神埼は難なくそれをヒョイと横に避けると、嘲笑うように口端を弓なりに上げてソファに座る私を見下ろす。 見慣れた不愉快極まりないこの顔は、こんな時も更に私の怒りを掻き立てた。ボディーガード兼世話係という名目で、いつでもこの男は勝手に人の部屋へ入ってくるので正直困っている。 「ハァ……ところで何の用よ、あの招かざるお客様方はお帰りになったの?」 深い溜め息を吐きながら顔も見ずに問う。 “招かざる客”とは言わずもがな和之のことだ。 あの男は事前に親許へ連絡を入れていたらしく、幾許も経たない内に御歳68歳で現役日本弁護士協会現理事長を勤めている不破 (かず)(まさ)とその娘、不破 (さち)()が彼を迎えにきた。 祖父もそれなりの権力者だが、母親の方も国際弁護士として世界中を忙しく飛び回っていると聞く。そして娘婿で和之の父、(ひで)(あき)も地方で単身、裁判官を勤めているらしかった。 裏の家業を生業とするウチにとって、最も関わり合いたくない職種の一族と言っても過言ではない。 けれど今夜はその一家が奇跡的に揃うという情報を、吉良経由で事前に手に入れていた。絶好の機会だと捉えた私は、この日にある計画を実行する事にしたのだけど……。 用意周到なあの男はそれを逆手に取り、煌騎奪還に上手く利用したのだ。 普段は不仲だと聞き及んでいたのに彼の策略で、大事な跡取り息子を(かどわ)かしたとしてお祖父様は不破家から糾弾され、持てる権力を駆使して今後一切の動きを抑制すると宣言されてしまった。 お陰で私は当分の間、お祖父様の権力が使えなくなったのは言うまでもない。肝心の煌騎には逃げられてしまうし、もう踏んだり蹴ったりだ。 「これで吉良が失敗なんかしてたらホンット許さないんだからッ!!」 「………フッ、お嬢は自分の事しか考えてないんだな」 呆れ返るように神埼は鼻で笑うが、これは私の生まれ持った性格だ。本当に欲しいと思うものを欲しいと言えず、今まではずっと我慢を強いられていたんですもの。

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