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第223話

ここで怯えれば面白がってもっと虐められる。それが嫌というほど分かっているのに、身体は勝手にブルブルと震えて止められなかった。 「ありが……と……ござい……ます」 ボクは何とか引き攣った笑顔だったけど、亜也斗に首輪のお礼を言う。これはあの地下室で学んだことのひとつだ。 例え望まないものを貰ったとしても、相手の機嫌を損ねないようにちゃんとお礼を言わないと、あとで死ぬほどお仕置きをされる。 どんなに後悔したとしてもそれを怠るだけで、決して許して貰えることはないのだ。 きっとこれからはそれがまたボクの日常……。 でも気の短い彼の事だから、案外あの地下室にいた時よりも早くボクを壊してくれるかもしれない。 それだけが唯一の救いだった。やっぱり屋敷を抜け出したあの時の決断は、間違っていなかったんだと思えるから……。 首輪を付けられて暫くした頃、室内に吉良さんが緩慢な動作で入ってきた。 移動中はずっと同じ車に乗っていたハズなのに、降りた時には既にいなくなっていたけどその顔は車内にいた時よりも暗い。 その彼の手にはスマホが固く握られていた。 「亜也斗、お前の親父さんから伝言。『日本を発つまでの間はもう“其処”で大人しくしていろ』だそうだ」 「ふーん、親父に新しい"ペット”の事もう言った?」 「あぁ、一応は伝えた。『もし"それ”が壊れても此方で処理するからお前は金輪際、余計な事はするな』とさ」 「フハッ! 親父まだこの間の“ゴミ”、生ゴミとして出したの根に持ってたんだ。ちゃんと分別してやったのに、何を腹立ててんだか……なぁ?」 楽しそうに亜也斗は話していたけど、対する吉良さんは変わらず浮かない顔で最低限の受け答えしかしない。 それを見ててボクは唐突にだけど、吉良さんもボクと同じ立場なのではと思った。 もちろん置かれている境遇などは全然違うだろうけど、彼も何かに縛られて生きていて、どう足掻いてもその運命からは逃れられない。 だからボクを見る度に哀しい顔をしていたんだなと、今までの吉良さんを思い返して悟った。 「それと……前の『飼い主』からも伝令だ。そいつを譲る代わりに壊れるまで犯してその動画をネットで拡散しろと要求してきている」 「―――はぁっ!? 何それ、動画とかめちゃくちゃ面倒くさいんだけどッ!!」 やはり何の感情も示さないまま淡々と告げる彼に、亜也斗は怒り気味に反論する。

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